「バカな、そんな時間はなかったはずだぞ」

 そう、本当はそんな時間などなかった。エリシモさんを助けたくてすぐに古文書は投げ返したから。でも、僕はしゃべり続ける。

「嘘だと思うんなら調べてごらんよ。最初の100ページほどが白紙になっているから。ページをもとに戻してほしかったらエリシモさんを開放しろ」

 オーケンは再びエリシモさんの首に手をかけた。

「妙な真似をしたらこいつの首を折るからな」

 そう言って台に置かれた古文書のブックカバーに手をかけて、留め金を下に引く。すると突然ブックカバー全体が光り出し、数千という光るトゲがオーケンに襲い掛かかった。

「あっ!」

 僕は古文書に細工なんてしていない。かつて外したロックを再びかけ直しただけである。それを不用意に開けようとすれば、トラップが発動するのはご存じの通りだ。

 トラップの発動と同時に踏み込み、オーケンの肩を打って、エリシモさんを解放した。後ろによろけるオーケンに追撃を浴びせる。

「これで終わりだ!」

 手にしたフレキブルスタッフを最大限に伸ばしてオーケンを突き上げた。

「グガッ!」

 オーケンの口から鮮血が溢れ、中央制御室の床が赤く染まっていく。フレキシブルスタッフはオーケンの体を貫き、すぐ後ろにあったメインコンピューターまでをも破壊していた。

「エリシモさん!」

 慌てて駆け寄って「修理」を施した。体がすっかり癒えてもエリシモさんの表情はすぐれなかった。ずっと緊張のし通しだったからだろう。

「お、終わったのですか?」

「はい、すべてカタがつきました。他の反逆者も今頃は仲間が討伐してくれているはずです」

 メリッサがついているのだ。向こうも大丈夫なはずだ。

「私、足が震えてしまって……」

 エリシモさんは上手く立てないようだ。そのときスピーカーから声が聞こえてきた。

「中央制御装置の損傷を確認しました。機体の維持に不具合が出ています。操縦を手動に切り替えてください。繰り返します――」

 よしよし、計画通りだな。

「エリシモさん、戦艦を操縦できますか?」

「え、それは……古文書には載っているのですが、すぐというわけには……」

「だったら逃げ出すしかなさそうですね」

「アヴァロンは機体の維持ができません。地上への激突までおよそ16分です」

 あれ、思ったより時間がないな。

「あの、セラのスキルで修理することはできないのですか?」

「16分では不可能ですよ。それよりも早く逃げましょう」

「わ、わかりました」

 警報が響き渡る船内を、僕らは甲板へ向かって走り出した。