「殿下を放せ!」

 斬りかかった騎士を一刀のもとに返り討ちにしたオーケンが話を続ける。

「お前らだってわかっているだろう? 悲惨な兵隊の末路を。脚や腕を失くして物乞いに身を落とした同僚を何人見てきた? 今俺たちの目の前にはチャンスが転がっているんだ。権力と金が欲しくないのか? どうだ?」

カジンダスの一人が素早く剣を抜いた。そして傍ら似た騎士の腹を刺す。

「俺は隊長についていくぜ」

「そうこなくっちゃな。ラウム、お前には国を三つくれてやるぜ!」

 こうなると他のカジンダスの反応も早かった。すぐに武器を抜くと近くにいた親衛隊に斬りつけたのだ。こう言っては何だがパミューさんの親衛隊はカジンダスの相手ではなかった。あっという間に切り伏せられ、ことごとく絶命してしまう。

 最後まで抵抗していたエイミアさんも腹を剣で突き刺されてその場に倒れた。すぐに飛び出して行きたかったけど、僕はぐっと堪えた。相手がオーケン一人なら勝てると思うが、ここにはカジンダスの腕利きが五十人もいるのだ。さすがに僕一人では荷が重い。万が一僕がここで倒れたらこの事件を外に伝えることもできなくなってしまうのだ。

「貴様、このようなことをしてただで済むと思っているのか!」

 怒鳴りつけるパミューさんの頬をオーケンは張り手で殴りつけた。

「ギャーギャーうるせえんだよ! お前なんか単なる人質だぜ、古代言語のわかる第二皇女様と比べたって数段劣る人質だ。身の程を弁えろってんだよ」

「クッ……」

 パミューさんは口の端から血を流しながら悔しそうにオーケンを見上げた。

「そうそう、大人しくしていろよ。そうすれば生かしておいてやるからな。誰かパミュー殿下を監禁しておけ」

 二人の部下がパミューさんを連行していってしまう。

「それじゃあ、この船のことをじっくりと教えてもらいましょうかね、エリシモ殿下」

 オーケンがパミューさんの肩に馴れ馴れしく手をまわした。パミューさんは青い顔をして震えている。

「とりあえず死体を片付けろ。それが済んだらエリシモ先生の特別講義だ!」

 オーケンの弾む声が、忌々しく中央制御室に響いた。

 慌ただしく人が動き出す。くそっ、このままにはしておけないけど、とりあえず運び出された死体を確認しないと。まだ息のある人がいるかもしれない。