これはまさに前世のSFアニメで観た宇宙戦艦じゃないか! まあ、これが宇宙へ行くことはないと思うけど、空へ浮かび上がることは想像がつく。

「すげえ……、すげえぜこりゃあ! 話には聞いていたが、まさか本当にあったとはな。皇帝陛下が青い顔をするわけだぜ!」

 全員が声を失う中でオーケン一人がはしゃいでいた。オーケンが皇帝から受けた特命というのはこの戦艦の調査と確保だったわけだ。

「エリシモ、これは本当に動くのか?」

 そう質問するパミューさんは青白い顔をしている。

「ええ、システムはすべて問題なく起動しているわ。魔力が充填され次第出発も可能よ」

「空中浮遊戦艦アヴァロンか……ついに見つけたな」

 アヴァロンとはこれのことだったのか。

「魔力の充填はまだ全体の10%ほどだけど、これだけで120時間の運用が可能みたい」

 こんなものが帝国の手に渡ったら世界はどうなってしまうのだろう? 戦艦の能力はまだまだ未知数だけど、とんでもないことになってしまう気がする。まずはこれがどういうもので、どの程度の能力を有しているかを見極めるとしよう。

 エリシモさんを先頭に皇女の親衛隊とカジンダスが艦の中へと入っていく。一般兵は外で見張りをするようだ。僕は引き続き後をつけることにした。


 戦艦の能力は僕の予想をはるかに超えていた。エリシモさんたちはあちこち回りながら中央制御室へ向かっていたけど、その途中には野菜プラントや工業プラント、居住区には葉を茂らせた木のある公園なんてものまで備わっていた。前世ぶりにブランコを見たよ。

「街をそのまま船の中へ持ってきたようだな」

 パミューさんの感想は的を射ている。ここでは食糧生産から工業製品まで何でも作ることが可能なのだ。一行は様々な部屋を視察して中央制御室に入った。

 制御室は階段状になっていて、正面には巨大なスクリーンがあり、今は格納庫の各所が映し出されている。パミューさんたちは部屋の最上段へ移動して、艦長用の席に着いた。

 僕も中に入って話を聞こうと思ったのだが、間の悪いことに、こんなときに限ってターンヘルムの魔力が切れてしまった。幸いこちらを振り返る人は誰もいなかったので間一髪で扉の陰に隠れる。

 ターンヘルムは光属性の魔結晶である白晶を消費するのだが、白晶の予備は一粒もない。仕方がないので部屋の外からまたのぞき穴を作って、中の様子を窺った。

古文書を開きながら各部をチェックしているエリシモさんにパミューさんが訊ねている。

「本当に我々だけでこの巨大な戦艦を動かすことができるのか?」

「問題ないわ。私たちは命令を出すだけでいいの」