狭い通路を守る兵士たちの頭上を、ターンヘルムで姿を消した状態のまま飛び越えた。音もなく着地できたので僕に気がつく者はいない。奥の方へ行くと兵士たちが食事の準備をしている姿が目についた。近未来的な部屋の中で床に魔導コンロを並べ、鍋をかき混ぜる姿はどこかシュールだった。

 そう言えば朝に食事をしただけで、お昼ご飯も食べていない。ずっと氷のボートで移動していたから食事休憩ができなかったのだ。帝国兵たちは腹を満たしてから本格的な調査に乗り出すようだ。さて、パミューさんとエリシモさんはどこへ行ったかな?

 様子を窺いながら奥へ行くとカジンダスの連中が守っている部屋があった。オーケンのやつも仁王立ちで警護に当たっている。あいつらが守衛をしているということは、この中にお姫様達がいるのかもしれない。すぐ隣に部屋があるから、こちらに潜り込んでみよう。

 僕が入った部屋は何もないところだった。かつては倉庫だったのかもしれない。空っぽの棚だけがそのまま残されている。

 薄暗い部屋を横切り、パミューさんたちがいると思しき方面の壁に耳をつけてみる。だが、何の音も聞こえてこない。さすがは古代文明の遺跡である。僕が借りていた安アパートとは大違いだ。

「解体」のスキルを展開して壁の一部に小さなのぞき穴を作ってみる。お、向こうの部屋の会話が聞こえてきたぞ。思った通りパミューさんとエリシモさんはこの部屋の中にいたようだ。

 向こうの部屋は煌々と明かりがともり、メインコントロールルームといった風情を漂わせていた。二人は椅子に座って光る石板を覗き込んでいた。エリシモさんが操作するその石板は大型のタブレットのようだ。辞書を片手に解読しながら、指で画面をフリックしている。

 画面の操作をしながらエリシモさんが口を開いた。

「冒険者たちは全員地上へ戻したの?」

「ああ、奴らにもう用はない」

「セラも帰してしまったのね……」

 エリシモさんの言葉にパミューさんはイライラした態度をとっていた。

「仕方がなかろう。ここから先は帝国の最高機密に関わるのだ。アヴァロンがその古文書の通りのものならば、それは帝国にとって諸刃の剣になりかねない」

 またアヴァロンか、いったいどんなものなのだろう?

「わかっているわ。ただ、私は発見に舞い上がってしまって、ちゃんとお礼も言えなかったから……」

「セラには後できちんと報いてやればいい。なんなら私の親衛隊に招き入れ、ゆくゆくは隊長に据えてやってもいいと考えている。セラが隊長になれば皇帝直属のカジンダスを凌ぐ組織になるぞ」」