エリシモさんは興奮しながら周囲を駆け巡っている。地下十階にモンスターの気配はないけど、一人で奥へ行くのは危ない。

「待ってエリシモさん!」

 追いかけようとしたらオーケンの奴に邪魔された。

「そこをどいてよ。安全確認がまだなんだから」

「必要ない」

 オーケンは人を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「必要ないってどういうことだよ?」

「この場所は我々の手で調査するのだ。たった今から地下十階への立ち入りを禁ずる。お前たちは地上へ戻れ」

「そんな!」

 ここまで来て地上へ戻れだって? 勝手な言い草に驚いてパミューさんを見たけど、彼女もオーケンの言葉を否定しなかった。

「ここまでご苦労だった。今回の調査に協力した者には約束通りの報酬と帝国市民権を与える。後は我々に任せて地上へ戻っていてくれ」

 つまり、僕らにこの地下十階を見せたくないってことだな。最初から、ここまで案内させて帰らせる気だったわけだ。僕はダンジョンの奥に何があるか知りたくて協力したっていうのに。

「ふう、これでやっと地上へ帰れるぜ」

「戻ったら晴れて自由の身か。お祝いにたらふく酒を飲みたいな」

「おう、近いうちにエルドラハとはおさらばするんだ。最後の思い出に酒場へ繰り出そうぜ」

 他の冒険者たちは雑談を交わしながら続々と上りのエスカレーターへ乗っている。

 奥へつながる通路は兵士たちによって封鎖されてしまった。この奥には何があるのだろう? とにかくそれが気になった。

「セラ、頑張っても通してもらうことはできないぜ。俺たちも戻ろう」

 シドが僕の腕を引っ張る。僕らは冒険者たちの最後尾でエスカレーターに乗った。手すりに手をついて振り返ると、申し訳なさそうな顔をしたパミューさんと目が合った。この奥には帝国にとってかなり重要なものがあるに違いない……。

「シド、やっぱり僕は行ってくるよ」

「行くって、奥にか?」

「うん、だって何があるのか気になるもん。だから例の物を貸して」

「まったく、お前ってやつは……」

 呆れた顔をしながらも、シドは自分がかぶっていたヘルメットを脱いで僕に渡してくれた。これはターンヘルムと言って装備者の姿を見えなくすることができるアイテムだ。ダンジョンの宝箱に入っていた、賢者のプリズムという素材を使って僕が造ったものである。

 僕は靴紐を治すふりをして屈み、ターンヘルを起動させた。

「みんなは地上へ戻っていて」

「だめ、帝国が何を企んでいるのかが気になる」

 メリッサも戻る気はないようだ。

「セラ、私たちは何かあったときのために階段のところで待機しているわ。みんなもそれでいいわね?」

 リタの言葉に一同は頷いた。

「うん、じゃあちょっと探ってくるよ」

 下りのエスカレーターに飛び移り、僕は再び地下十階へと戻っていった。