「この下にロックを解除するための装置があるはずなんだけど」

「どんな装置ですか?」

「古文書には、このブックカバーをはめ込むと扉が開くとあるわ」

「では、水を何とかしないとダメですね」

 僕が潜って扉を開くという手もあるけど、そんなことをしたら地下十階に水が流れ込んでしまう。濁流にのみこまれて誰も助からないだろう。そこで再び僕とメリッサの出番である。

「メリッサ、この区画の水を凍らせてくれないかな?」

「うん、やってみる」

 ボートの上に立ったメリッサが魔法をふるい、周囲の水をすべて凍てつかせた。調査隊はずっと氷のボートに座りっぱなしだったし、今や周りが氷で覆われているのでガチガチと歯を鳴らしながら震えている。リタなんてフレイムソードを最弱の設定で起動し、抱きしめて暖を取っているほどだった。

 辺り一面が凍ってしまうと「解体」を使って氷を削りだし、堤防を作りながら床を掘り進めた。やがて、扉を開く装置が露出する。

「エリシモさん、装置が出てきましたよ!」

 上に向かって呼びかけると、氷の階段をエリシモさんが降りてきた。

「うん、これよ。水に浸かっていたみたいだけど、壊れていないかしら?」

 スキャンで確かめたけど問題はなさそうだ。

「平気みたいですよ。危険があるといけないので僕が開けます。エリシモさんは下がっていてください」

「お願いね」

 古文書を受け取り、溝になっている部分にはめ込んだ。金属製のブックカバーはきっちりとはまり、周囲の文字盤が光り出す。何やら読み取り作業をしているように見える。そして、僕には判別できない音声が流れ、三重の扉が上と左右に分かれて開いた。ついに地下十階が僕らの目の間に現れたのだ。

 階段はエスカレーターで、僕らが近づくと自動的に動き出した。初めて見る動く階段にララベルが興奮している。

「なんだこれ、おもしれーの!」

「足元に気を付けてね。黄色い線の内側に乗るんだよ。エスカレーターの周りでは遊んじゃ駄目だからな」

 ここは本当に異世界だろうか? 室内は近未来を描いたSF映画のようである。明るく光る装置がびっしりと置かれ、なにがしかのインフォメーションをあらわす文字盤が各所で輝いていた。

「すごい、すごいわ! すべて古文書に書いてあった通りよ。しかもここまで完璧に保存されている遺跡なんて初めて」