パミューさんの顔から少しだけ緊張の色が消えた。

「そうか、楽しみにしているぞ。きっと無事に帰ってきてくれ」

 階段を少し降りると天井と水面には50㎝ほどの隙間があった。どうやらこの階層は完全に水没しているみたいだ。僕はボンベの吸入口を咥え、ランタンを片手に水へ飛び込んだ。


 デザートホークスの標準装備であるヘッドライトは明るく、水中でもじゅうぶんな視界を保ってくれた。いまのところモンスターの気配はない。モンスターたちもこの水で死んでしまったのだろうか?

 しばらく水中を進んでから水面まであがり、周囲の様子を確認した。他の場所も水面と天井の間にわずかな隙間がある。小舟を用意すれば下り階段に向かう場所へは行けそうだ。

 エリシモさんの話によると、下り階段はロックされているらしい。そんな状況で扉を解除したら、下の階層に水が流れ込んでしまいそうだから何か対策を考えなくてはならないな。

 おや、あの音は何だろう? 通路の奥の方からザーザーと水が流れ落ちる音が聞こえてくる。僕は音のする方へ泳いでいった。

 そこは地下九階の最東端だった。どういうわけか天井の一部が崩れ、そこから水が流れ出してきている。これはどういうことだろうと、壁の奥を調べてみると、巨大なパイプに亀裂が入り、そこから水があふれ出しているのがわかった。

 このパイプはデザートフォーミングマシンの一部だ! 地中の水脈から水を汲み上げるパイプは何本かあるのだけど、そのうちの一本が破損していたようだ。そのせいで地下九階が水没してしまったのだな。

 壊れたパイプを「修理」で直し、みんなのところへ戻った。


 水から上るとメリッサがタオルを手渡してくれた。すでに火が焚いてあり、僕が暖まれる用意がしてくれてある。仲間というのはありがたいものだ。

「誰か、セラに温かい飲み物を持て」

 パミューさんも僕を労ってくれる。お茶の入ったカップを受け取りながら、この階層の様子を報告した。

「地下九階が水没していた原因ですが、天井からの水漏れでした。すでに水は止めてあるのでこれ以上増えることはありません」

 パミューさんは腕組みをして考えている。

「そうか、ご苦労だったな。だが水がひかなければ地下十階に下りる階段のところまでたどり着けないな。いつになったら水がはけることやら……」

「この階層は非常に気密性が高く作られているようです。自然に排水されるのを待っていたら何十年もかかってしまうでしょう」

 床も壁もコンクリートのような構造をしていたのだ。あれでは排水はされないだろう。

「それはまずい。何とか手はないだろうか?」