「メリッサに無茶を言うことに対しては怒っています」

 気持ちははっきりと告げておいた。

「そ、それは……しょうがないだろう。セラの婚約者というあの女が憎たらしくて仕方がないのだ」

 さすがは第一皇女様、清々しいまでの開き直りっぷり!

「そんなことを言わないでください」

「私はずっとセラをそばに置いておきたいのだ。どうしてわかってくれない?」

「パミューさんこそわかってください。僕は籠の中の鳥は嫌なんです。でも、自由にさせてくれれば、きっとパミューさんを助けてあげますよ」

「…………考えておく」

 パミューさんはそう言って、もう一口水筒のスポーツドリンクを飲んだ。そのせいだろうか、頬に赤味が差したパミューさんは少しだけいつもの元気を取り戻したように見えた。



 大きな犠牲を払いながらも、エリシモさんの案内で地下八階を抜け、ついに僕らは下り階段を発見した。だが、ここで新たな問題が立ちふさがる。なんと、たどり着いた地下九階が水没していたのだ。

 いつもなら無茶な命令をしてくるパミューさんも、このときばかりはメリッサに偵察をしてこいとは言わなかった。ドリンクの差し入れが効いたのか、多少の分別を取り戻したようだ。

 水は澄んでいたけど、底の方は暗くて何も見えない。どんな敵が潜んでいるかもわからない状況だった。

「僕が見てきます」

 偵察役を買って出た。

「セラ、無茶な真似はよせ。よく考えてから行動しよう」

 パミューさんはそう言ってくれたけど、僕だって考えもなく志願したわけじゃない。

「実はグランダス湖で遊ぼうと作った超小型酸素ボンベがあるんです」

「酸素ボンベとはなんだ?」

「水の中で息をする装置です。たまたまタンクの中に置きっぱなしにしてあったのを思い出しました」

 これは紫晶の力をかりて、電気分解により水から空気を作り出す装置である。紫晶と緑晶を100gずつ入れれば、十五分ほどの連続使用が可能になる。行こうとしたらパミューさんが後ろから声をかけてきた。

「セラ、すまんが頼む。気をつけてな……」

 なんだか以前のパミューさんに戻っている。少しは落ち着いてくれたみたいだ。

「任せてください。帰ってきたらお茶にしましょう。約束のチーズケーキを焼きましたから」