そのとき僕は負傷者の治療が一段落して、オーケンの近くで戦っていた。僕のところからは奴の戦う姿が良く見えた。オーケンはドラゴンフライを相手に双剣をふるっているところだった。槍を持った歩兵がバックアップに回り、ドラゴンフライの動きを限定している。

 そのときだ。いきなり現れた新手が、オーケンの真上から襲い掛かった。すると、オーケンはあろうことか近くにいた兵士を盾として使ったのだ。兵士の肩にドラゴンフライの爪が食い込む。その寸隙を塗ってオーケンは剣でドラゴンフライの頭部を貫いていた。

「なんてことをするんだ!」

 思わず抗議の声を上げていた。慌てて駆け寄ると、オーケンは負傷した兵士をこちらに投げて寄こした。

「俺がやられていたら、どうせこいつも死んでいたさ。こうやって役に立てたんだ、こいつにとっても名誉ってもんだぜ」

 ぬけぬけととんでもないことを口走っている。

「アンタ、碌な死に方をしないよ」

「修理」で兵士を治療しながらオーケンを睨んだ。

「気に食わないのはお互い様さ。相手ならいずれしてやるぜ。お姫様達のいないところでな」

 オーケンは悪態をつきながら行ってしまった。


 地下八階で調査隊は二十四人もの死者をだした。いずれも即死だったからだ。負傷で済んだ人はどんなに重症でも僕が治している。兵士たちにはとにかく急所をしっかりガードするように伝えておいた。死にさえしなければ「修理」で何とかできるのだ。

 大きな犠牲を払ったために調査隊の人々の間に重苦しい空気が流れていた。地下八階はこれまでよりずっと危険な階層であることは誰の目にも明らかだった。パミューさんも暗い顔をして黙々と歩いている。もういつもの元気はどこにもない。小さな陰に怯える姿は見ていて痛々しいほどだ。

 いまだに僕とはあまりしゃべらないけど、前のように拒否する態度はなくなっている。少しだけ元気づけてあげたいな。そう考えて飲み物を差し入れた。

「パミューさん、水分補給をしてください。ここに特製のスポーツドリンクを作っておきました」

「セラ……」

 パミューさんはスポーツドリンクが何かとも聞かず、水筒に口をつけた。元気が出る成分を入れておいたけど、一口だけじゃ効果がないかな? 彼女の顔は暗いままだ。

「大丈夫ですよ。これ以上の犠牲が出ないように僕も頑張りますから」

「……セラは優しいな。冷たくした私に怒っていないのか?」