「気を付けてセラ。あれはマンティコアよ」

 マンティコアと言えばかなり強力なモンスターとして知られている。それが三体も同時に出てくるのだから地下八階は伊達じゃない。

 巨大な牙をむき出しにしたマンティコアが一足飛びに襲い掛かってきた。尋常じゃない瞬発力だけど、それはこちらも予測していたことだ。僕は手の中に隠していたフレキシブルスタッフを一気に伸ばし、飛びかかってきたマンティコアにカウンター攻撃を仕掛けた。

「グオッ……」

 刹那の間に伸びたスタッフはマンティコアの口の中を貫き、脳漿を壁にまき散らしている。初見でこれを見切るのは難しかったようだな。実戦で使うのは初めてだったけど、予想以上に使いやすい武器かもしれない。ちょっとオーバーキルのきらいはあるけど……。

 メリッサの方も余裕のある戦いをしていた。氷狼の剣で二体の精霊狼を呼び出し、マンティコアの動きを足止めさせると、すかさず宙を回転しながら首を落としていた。最後の一体は二人で挟んで仕留めた。

「どうだった、セラ?」

「止めを刺す前にスキャンをかけてみたけど、戦闘力判定はAマイナスだったよ。こんなのがごろごろいるとしたら大変だろうね」

 僕やメリッサはともかく、一般の兵士が襲われたらひとたまりもないかもしれない。デザートホークスでもまともに戦えるのはミレアくらいだろう。シドやリタ、ララベルにはちょっと荷が重い。

 これからは怪我人が増えそうだ。調査隊の中にも治癒師が何人かいるが、あの人たちだけでは追い付かなくなりそうである。

「どうするの? シドたちが危ないわ」

「ドーピングをするしかないかな」

 僕の料理には能力をボトムアップさせる力がある。こんなこともあろうかとビスケットタイプの簡易食糧にして作ってあったのだ。

「だけど、効果があるのは半日だけだ。しかも在庫はメンバーの分しかない」

 ここからはかなり厳しい戦いが続きそうだった。


 予想した通り、地下八階に進むと怪我人の数は一気に増えた。最前線で戦う冒険者の負傷者が多い。だが彼らは一流だけあって死人はまだ出ていない。死者・重傷者は側面を攻撃された帝国兵士たちに多かった。

 僕は最前列で戦いたかったけど治療の手が足りなくなっている。怪我人が多すぎて治癒師たちの手に余っているのだ。また、彼らにはもげた腕をくっつけたり、欠損部位を生やしたりなんてことはできない。地下八階の奥へ行けば行くほど、僕は治療にかかりきりになってしまった。

 そんな状況の中で活躍したのは特殊部隊カジンダスの連中だ。気に食わない奴だけどオーケンはやっぱり強い。強力なモンスターを相手に一歩も引かず、襲い来る敵を片っ端から倒している。皇帝の特命を受けるだけの実力があるということだ。だけどやっぱりあいつはろくな奴じゃなかったのだ……。