ダンジョン探索は相変わらずのろのろと進み、三日目にして地下六階にようやく到達した。僕らを取り巻く状況も少し変化している。

 いちばん変わったのは、パミューさんたちの天幕に僕が呼ばれなくなったことだ。それまでは食事を作って届け、おしゃべりを楽しんだりしていたのだけど、今ではエイミアさんができあがった食事を取りに来るだけになっている。


「殿下たちは非常に気落ちしていてな……。君がかわいかった分、落胆も大きかったようだ」

「落胆って、どうしてですか?」

「それは……、かわいい娘の婚姻のとき、父親は寂しさを感じるというだろう? それに近いものがあるんじゃないか?」

「僕が娘ですか?」

「物のたとえだよ。かわいい弟の恋人に姉が嫉妬するようなものと言った方が分かりやすいかもしれないな」

 それならなんとなく分かった。ただ予想外だったのは、思っていた以上にパミューさんの嫉妬が深かったことだ。

 その日を境に、メリッサを指名する命令が激増してしまった。危険な偵察任務や、伝令役、果てはゴミ拾いや、トイレの穴を掘る作業までさせられる始末だ。まるでドラマに出てきそうな意地の悪い小姑みたいである。

 僕はなるべくメリッサを手伝ったし、メリッサも嫌な顔をせずに命令を遂行していた。二人でやればゴミ拾いもそれなりに楽しかった。

 でも、そんな僕らを見たせいだろうか? パミューさんの態度はあからさまに冷たくなり、エリシモさんも距離をとっているようだった。そして、このような状況で調査隊はついに地下七階までやってきた。


 地下七階はエリシモさんの指定するルートで進んだ。帝国によるダンジョン調査が始まる前、僕らは十日間にわたり地下七階でゴーレムを狩りまくっている。そのせいもあって敵となるゴーレムは一体も現れていない。おかげで進行速度は速かった。

 隠し階段を出現させるためのルートは非常に複雑だった。普段ならほとんど行かないような場所や、同じ回廊を二周回ることさえもあったくらいだ。そして、僕らは西の隅っこまでやってきた。

「おい、この先は袋小路じゃなかったか?」

 道をおぼえるのが得意なシドが囁く。

「うん、そのはずだよ。ここは何度も来たから僕も憶えている」

 ところが、僕らの目の前には見たこともないような下り階段があった。

「こいつは驚いたな……」