それ以上の情報は引き出せなかったけど、デザートフォーミングマシンを黙認するというのなら一安心だ。

「ところでセラ……」

 見ると、エリシモさんは切羽詰まった顔で僕のことを見つめていた。ワタワタと手を動かしていたかと思えば、急に固まったりしている。

「どうしましたか?」

「私、……貴方に謝りたくて……」

「謝るって何を? エリシモさんはずっと僕に親切でしたよ」

 姉のパミューさんとは大違いだ。

「お、覚えてないかしら? ほら、あれよ……キスのこと……。わ、別れ際にあんなことをしてしまったから……。あの時はもう二度と会えないと思って、つい……」

 あ、思い出した。僕のファーストキス……。うわ、思い出したら僕まで挙動不審になってしまう。

「そ、その、覚えています。覚えていますけど、あれは何というか青春の一ページっていうか、素敵などきどきメモリアルっていうか……」

 僕はなにを言っているんだ!

「私、セラの気持ちも考えずに自分の気持ちだけを押し付けてしまったことがずっと心に引っかかっていて」

「そんなことは気にしなくていいです。その、僕にとって、あれはいい思い出というか……はい……」

「そう……だったら……よかった」

 僕らは同時に冷め切ったコーヒーをグッと飲み干した。そして互いの行動を確認して苦笑してしまう。

「も、もう寝るわね。これでちょっと安心できたから」

「はい、おやすみなさい。先は長いのでゆっくり休んでくださいね」

 入り口までエリシモさんを見送っていく。音を立てて扉が閉じられると、緊張が一気に抜けて大きなため息が出てしまった。


 再び静寂に包まれた部屋で、今度こそ僕は鮫噛剣の修理をしようとした。だけど、エリシモさんに会って、僕はとあることを思い出した。それはエリシモさんに刺さっていたトゲのことだ。

 あれは古代文明の高度な技術によって作り出された特殊な合金だ。特定の波長の魔力を送りこむと形が変化するという性質を持っている。その技術を応用すれば刃こぼれしても自動修復する武器が造れるかもしれない。さいわい構造は帝都で解析済みである。金晶や銀晶などを使えば再現が可能かもしれないのだ。

 僕はさっそくメモ帳を取り出して、例の金属について書かれたページを開いた。素材は手持ちの物で事足りそうだ。よし、鮫噛剣の修復は後回しにして、新しい武器の制作をしてしまおう。

「ミノンちゃん、でへ、でへ、でへへ……」

 シドの寝言が聞こえる。きっと幸せな夢を見ているのだろう。僕はみんなを起こさないように、そっと素材を台の上に並べた。