百味の聖樹からはコーヒーや茶葉だってとれるのだ。口をつけてから、エリシモさんは驚いた顔を上げる。

「名品と呼ばれるトアリガルに勝るとも劣らない味よ。豆の出来もいいけれど、セラとこんな不思議な空間で飲むせいもあるのでしょうね」

「元気にしていましたか? トゲの後遺症とかはどうです?」

 僕らは互いの近況を報告し合った。

「セラが帝都を去ってから、ずっと古文書の解読に没頭していたわ。なにかに熱中していれば、あなたがいない寂しさを忘れられたから……」

 僕はなんと返事をすればいいかわからなくて、無言でカップに口をつけた。

「ところでセラ、地上の湖のことですけど、あれはいつできたの?」

「グランダス湖ですか? うーん、ここ最近のことですね」

「そう、地下のデザートフォーミングマシンが何らかの原因で動き出したのね」

 エリシモさんの口からデザートフォーミングマシンという単語が出てきて、驚きにカップを落としそうになってしまった。

「知っていたんですか! デザートフォーミングマシンのこと……」

「ええ、古文書の中に記載があったから」

 そうか、あの古文書にはこのダンジョンのことが詳しく書かれていたんだな。エイミアさんは知らされていないようだったけど、お姫様達はすべてを知っていたんだ。

「じゃあ、やっぱり帝国は聖杯を取り戻しに調査隊を派遣したんですね?」

 エリシモさんは笑顔で首を横に振った。

「違うわよ。帝国が聖杯を欲しがっていたのは事実だけど、あそこのガーディアンは鉄壁らしいの。今回派遣した調査隊の規模では破ることは不可能だわ。それに、デザートフォーミングマシンが動き出しているところをみると、すでに聖杯は使用されているはずよ。いまさら取り出すのは難しいと思うわ」

 全部バレていたのか。

「そのことがわかっているのなら、帝国の目的は一体何なのです?」

 エリシモさんは悲しそうな顔になった。

「たとえセラでもそれを打ち明けるわけにはいかないの、ごめんなさい」

 パミューさんだけじゃなく、エリシモさんも教えてはくれないか。直々に皇女が派遣されていること、カジンダスの存在、この二つの事実を顧みても隠された秘密は大きいようだ。

「わかりました。でも一つだけ確認させてください。帝国はデザートフォーミングマシンに手を出す気はないのですね」

「ええ、あれが起動したのは帝国にとってもいいことなの。帝国は後々エルドラハをアヴァロンの補給――」

 エリシモさんはハッとした顔で口をつぐんだ。アヴァロン? それは何だろう・?

「ごめんなさい、今の言葉は忘れて」