「奴は危険だから近づかないようにするのだぞ。私からもよく注意しておくから安心しろ」

「大丈夫ですよ、本当に。それにしてもパミューさんの部下には怖い人がいるんですね」

「あれは私の直属部隊じゃない。皇帝陛下の特命を受けて随伴しているだけなのだ」

 パミューさんは忌々しそうな表情をしている。皇帝の命令はパミューさんの命令を上回る。皇女であってもオーケンに対して自由裁量権は揮えないということか。どおりでオーケンの態度がでかいわけだ。

「パミューさんたちが探しているものっていったい何なんですか?」

「それは……セラに対しても言えないのだよ」

 パミューさんはごまかすように僕の頭をなでた。そして何も言わずに自分の席へと戻っていく。やっぱりこの探索には、僕たち冒険者には知らされていない何かがあるようだ。


 初日の探索は地下三階までで終了となった。昼間と同じように調査隊はいくつかの部屋に分かれて休息をとる。パミューさんたちは僕を同じ部屋にしたがったけど、仲間と一緒に寝ると断った。理由は二つある。

 一つはカジンダスの存在だ。あいつらは護衛任務もしているのでパミューさんたちと同じ部屋にいる。オーケンは根に持つタイプと見た。昼間の決着をつけようと、夜中に僕を暗殺しようとするかもしれない。安眠を妨害されるのは嫌なのでトラップを自由に張れる部屋にしたかったのだ。

 次の理由は武器づくりである。昼間の戦闘で僕の鮫噛剣は壊れてしまった。これを修理するか、新しい武器を作り出す必要がある。スキルを使うところを仲間以外に見られるのは嫌だったので、帝国兵がたくさんいる部屋ではやりたくなかったのだ。



 夜も更け、辺りはひっそりとしていた。昼間の疲れで調査隊は誰もが眠っている。起きているのは僕と入り口付近で番をしている兵隊くらいのものだ。そろそろ武器の修理をしようかと思っていたら、僕を訪ねてきた人がいた。騎士たちに守られたエリシモさんだった。

「少し下がっていなさい。セラと大切な話があります」

 エリシモさんは護衛たちを遠ざけると僕の近くに座った。いつもより距離が近い。周りはみんな寝ているので僕らは囁くような声で会話する。

「こんな夜更けにごめんなさい。でも、ずっとセラとゆっくりお話しできる機会がなかったから」

「遠慮はいりませんよ。僕もまだ寝るつもりはなかったので。コーヒーでも淹れますね」

 少しでもくつろげるようにと温かい飲み物を淹れた。地下ダンジョンにコーヒーの芳醇な香りが広がっていく。

「これはダンジョン産のコーヒーなんですよ。僕がローストしました」

「まあ、ダンジョンでコーヒーが取れるなんて初めて聞いたわ」