「本当に邪魔……」

 吐き捨てるように言うと、怒りは火に油を注ぐように加熱した。

「皇女のペット風情が俺を舐めるなよ。てめえは殿下たちの股ぐらでも舐めているのがお似合いなんだよ。そのかわいい顔をズタズタにしてやろうか?」

 他には聞こえないようにオーケンは僕に毒ついた。

「それ以上喋るな。お前の唾で食材が汚染される」

 そう答えると、オーケンは嬉しそうに笑って腰から双剣を抜いた。剣の全長は70㎝くらいのものだろうか。あまり長くない獲物から察するに、奴は近接戦闘が得意なのだろう。僕も傍らに置いておいた鮫噛剣を掴んだ。

 すぐに距離をとろうと考えたのだけど、オーケンがそれを許さない。するすると近づいてきて左右から斬撃を叩き込まれた。速いうえに重たい攻撃だ。並の人間なら腕が痺れてしまったかもしれないけど、パワーだけなら僕だって人並み以上だ。剣に魔力を込めて受け返し、逆に奴の剣を跳ね上げる。そうやって追撃を止めて、今度は僕の攻撃だ。

 横なぎの剣をわざと受けさせて鮫噛剣のワイヤーを伸ばした。これにより剣は鞭の形状に切り替わり、奴が受け止めた場所を起点にして鮫の歯が体に巻きつくはずだった。ところがオーケンは恐るべき動体視力でこれを見切り、剣をずらしてワイヤーを断ち切ってしまったのだ。

 それだけではない。オーケンは同時に空いている右手の剣で僕を攻撃してくるではないか。とっさに足で刀身を横から蹴ってこれを防いだ。僕のブーツはデザートホークス特製の鋼板入りだ。オーケンの剣はぽきりと折れて転がった。

 部屋の床にバラバラとなった鮫の歯と折れた双剣の刃が転がっている。わずか五秒の戦闘の結果がこれだった。

「何をしておるか?」

 騒ぎに感づいたパミューさんが僕らのところへやってきた。

「チッ、命拾いしたな、小僧」

 オーケンは囁いてパミューさんの方へ向き直る。

「雇った冒険者の腕前を確認していただけですよ。わるくないワンちゃんだ。顔もかわいいし、殿下がおそばに置いておきたくなる気持ちもわかりますなあ」

「下がれ、オーケン」

「へーい、自分は他の部屋の様子を見回ってきますよ……」

 オーケンはそのまま部屋を出て行ってしまった。

 パミューさんは心配そうに僕を見つめた。

「いったい何があったのだ? まさかオーケンがセラを襲ったのか?」

「いえ、本当に何でもないですよ」

 僕とオーケンに注目していた人は少なかった。戦闘も五秒だけのことだから、なにが起きたのかわかっていない人がほとんどだ。パミューさんもきちんとは見ていなかったようだからとぼけておくとしよう。