昼時になって全体が休憩をすることになった。朝に出発したというのに、まだ地下二階にしか到達していない。人の数が多くなると踏破スピードはこんなにも遅くなるのかと驚いた。
冒険者がダンジョンで休憩するときは小部屋などを封鎖して安全地帯を作るのが定石だ。だけど調査隊は総勢150人以上もいる。そんなに大勢が入れる部屋はないので、いくつかの小部屋に分かれて休憩することになった。
料理人としての腕を期待されている僕はパミューさんやエリシモさんたちと同じ部屋へ来ていた。テニスコート二面分くらいはある部屋で、三十人くらいが休んでも広々と使える。
契約ではお姫さんたちの料理はすべて僕が作ることになっている。要らないと言ったんだけど、パミューさんは前金で金晶やら銀晶やらをたくさんくれた。プロの冒険者としては謝礼分の働きはするつもりだ。
ミニキッチンを搭載したタンクもあったので、僕はそこで調理を開始した。時間はあまりないので凝った料理は作れない。昼は簡単にサンドイッチにしてしまおう。スープとデザートをつければそれなりのボリュームにはなる。
食材を吟味していると、なんとあの男が近づいてきた。オーケンである。
「お前、美味い飯を作るそうじゃないか。俺の分も作ってみろ。ただし不味かったら小指をへし折ってやるからな」
ニヤニヤと笑いながらオーケンはテーブルの上のトマトに手を伸ばしてきた。
「触らないでください。あんたの食事を作る契約は結んでいませんよ」
横柄な態度にカチンときたので、つい言い返してしまった。まさか口答えされるとは思っていなかったようで、オーケンは驚いた顔をした。でもそれはすぐに凶暴な笑みへととってかわる。
「ほう、威勢がいいな」
「別に、料理の邪魔だから消えてくれませんか?」
「……殿下たちのお気に入りだからって図に乗るなよ」
険悪な雰囲気が小部屋の中に満ちていく。僕らの視線が交錯した瞬間、オーケンが一歩踏み込んで裏拳を放ってきた。予備動作のない、静から動へ一瞬にして切り替わる攻撃である。下から振り上げる拳は鞭のようにしなって、僕の顎に襲い掛かかった。
でも奴は本気ではなかった。さすがに殺人はまずいと考えていたのだろう。拳に殺気はこもっていなかったし、スピードも並である。生意気な小僧を殴って鬱憤を晴らすくらいのつもりでいたに違いない。
だから攻撃を軽々と避けた僕に対して、オーケンの血は一気に沸騰してしまったようだ。
冒険者がダンジョンで休憩するときは小部屋などを封鎖して安全地帯を作るのが定石だ。だけど調査隊は総勢150人以上もいる。そんなに大勢が入れる部屋はないので、いくつかの小部屋に分かれて休憩することになった。
料理人としての腕を期待されている僕はパミューさんやエリシモさんたちと同じ部屋へ来ていた。テニスコート二面分くらいはある部屋で、三十人くらいが休んでも広々と使える。
契約ではお姫さんたちの料理はすべて僕が作ることになっている。要らないと言ったんだけど、パミューさんは前金で金晶やら銀晶やらをたくさんくれた。プロの冒険者としては謝礼分の働きはするつもりだ。
ミニキッチンを搭載したタンクもあったので、僕はそこで調理を開始した。時間はあまりないので凝った料理は作れない。昼は簡単にサンドイッチにしてしまおう。スープとデザートをつければそれなりのボリュームにはなる。
食材を吟味していると、なんとあの男が近づいてきた。オーケンである。
「お前、美味い飯を作るそうじゃないか。俺の分も作ってみろ。ただし不味かったら小指をへし折ってやるからな」
ニヤニヤと笑いながらオーケンはテーブルの上のトマトに手を伸ばしてきた。
「触らないでください。あんたの食事を作る契約は結んでいませんよ」
横柄な態度にカチンときたので、つい言い返してしまった。まさか口答えされるとは思っていなかったようで、オーケンは驚いた顔をした。でもそれはすぐに凶暴な笑みへととってかわる。
「ほう、威勢がいいな」
「別に、料理の邪魔だから消えてくれませんか?」
「……殿下たちのお気に入りだからって図に乗るなよ」
険悪な雰囲気が小部屋の中に満ちていく。僕らの視線が交錯した瞬間、オーケンが一歩踏み込んで裏拳を放ってきた。予備動作のない、静から動へ一瞬にして切り替わる攻撃である。下から振り上げる拳は鞭のようにしなって、僕の顎に襲い掛かかった。
でも奴は本気ではなかった。さすがに殺人はまずいと考えていたのだろう。拳に殺気はこもっていなかったし、スピードも並である。生意気な小僧を殴って鬱憤を晴らすくらいのつもりでいたに違いない。
だから攻撃を軽々と避けた僕に対して、オーケンの血は一気に沸騰してしまったようだ。