「二十年も前のことさ。当時の上官と揉めちまってな……」

「それで、エルドラハに?」

「ああ。だが後悔はしていないさ。あんな部隊には未練もねえ」

 よほど嫌なことがあったに違いない、シドははき捨てるように言った。

「カジンダスの中央に態度のでかい男がいるだろう」

「あの背の高い人? ちょっとヤバそうな雰囲気の」

「ああ。名前はチア・オーケンだ。奴とは一回だけ一緒に仕事をしたことがある。十六歳になったばかりのガキだったてのに、とんでもなく残酷な奴でな。あいつのやり口には、こちとらションベンをちびりそうになっちまったもんさ」

「そんなにひどかったの?」

「女であろうが子どもであろうが、奴は眉一つ動かさず、平気な顔をして殺していたよ。しかもその当時でさえ部隊一の強さだったんだ」

「二十年前だろう、それでもシドより強かったの?」

「ああ、全盛期の俺でも奴の足元にも及ばなかったんだ。あれから奴がどんな化け物に育ったか、想像もしたくねえよ。セラ、お前が相手でも危ないかもしれねえ」

 シドがこれほど怯えるなんて滅多にないことだ。

「いいかセラ、奴にはできるだけ近づくな。もめ事を見ても決して関わるな」

「わかったよ……」

 伝令の兵士が出発のラッパを吹きながら走り回っている。僕は荷台からはい出てタンクの操縦席へ乗り込んだ。そのとき、ふわりと僕の後ろに飛び乗ってきた人がいた。

「メリッサ! よかった、出発前に君ともう一度話しておきたかったんだ」

 あまりの安心感に涙ぐんでしまいそうになるのをぐっと堪えた。

「昨日はごめんなさい」

 メリッサは気まずそうに謝ってくる。いつも僕以外は表情が読めない彼女だけど、今日は誰が見てもわかるくらいしょんぼりしていた。

「いいんだ、メリッサの気持ちを考えれば当然のことだもん。僕の方こそごめん、偉そうに君を傷つけることを言ってしまって」

「怒ってない?」

「怒ってなんかいないさ。ひょっとしたらもう二度と口をきいてくれないんじゃないかって心配していたんだ。だからこうして来てくれて本当にうれしいよ」

「セラにお願いがある」

「何でも言って」

 メリッサは真っ直ぐな瞳で僕を見つめた。

「私も連れて行ってほしい。臨時でいいから私をデザートホークスに入れて」

「それは構わないけど……」

「あ、勘違いしないで、帝国の皇女の命なんか狙わない」