迷宮前広場に停められたタンクの荷台で、僕は静かに出発を待っていた。他のチームが前衛を命じられたのに対し、僕らデザートホークスは医療とバックアップに回されている。仕事をさぼっているみたいに思われるのも嫌だったので、タンクを六台だして荷運びを申し出たというわけだ。

 ズキズキと痛むこめかみを押さえて「修理」を使った。あれから一睡もできなかった僕はさぞかしひどい顔をしているのだろう。スキルのおかげで痛みはすぐに引いたけど、気持ちは沈んだままだった。

「どうした、どんよりした面をして」

 シドが僕に話しかけてくる。

「メリッサとちょっとね……」

「そういうことか。大方の察しはつくさ。黒い刃は旧グランベル王国の家臣団だからな」

 僕は昨晩のことをシドに打ち明けた。

「なるほどなあ、そいつはセラが悪い」

「どうして? シドも僕が帝国に味方するのは反対なの?」

「そうじゃねえ。悪いっていうのは、セラがすぐにメリッサを追いかけなかったことだ」

「それは……」

「セラの脚ならメリッサにだって追いつけたんじゃねえのか?」

「そうかもしれないけど」

 あの時の僕は気が動転して一歩も動けなくなっていたんだ。

「だいたいお前は八方美人過ぎるんだ。誰にでも親切にしやがって」

「そんなことないよ」

「そんなことあるんです! 今度メリッサにあったらきつく抱きしめてやれ。そんでもってブッチューと熱いキスでもしてみろ」

「えぇ……」

「なにドン引きしてんだよ? 好きなんだろう? メリッサのことが」

「それは……」

 シドは何も言うなといった感じで僕の肩を軽く叩いた。そして声を低くして訊ねてくる。

「ところで、黒い刃は本当に帝国のお姫さんたちを狙ってくるのか?」

「それはないと思うよ。メリッサも言ってみただけで、本気じゃないさ」

 そんなことをしても何にもならないのは黒い刃だってよくわかっているはずだ。

「だったらよかったぜ。もしも本気だったらメリッサは死んでいたかもしれないからな」

 シドはなにを言っているのだろう。帝国の兵士は300人も派遣されて来たけど、黒い刃が本気を出せば勝てない相手ではない。

「それはないよ。シドだってメリッサの腕は知っているだろう?」

「あれを見ろ」

 シドは僕の質問には答えず、パミューさんの周りを固めている黒い軍服を着ている一団を顎で指した。

「あいつらは?」

「帝国特殊部隊カジンダスだ」

「カジンダス……、初めて聞く名前だ」

「大昔からある部隊だぜ。まあ、歴史の表舞台に出てきたことはないけどな。どんな汚れ仕事もいとわない影の部隊さ」

「へー、さすがはシド。よくそんなことを知っていたね」

「まあ、俺の古巣だからな」

 今、とんでもないことをサラッと言ったような……。

「シドって帝国軍人だったの?」

「あれ、言ってなかったか?」

「初耳だよ」

 もう何年も一緒に暮らしていたというのにシドの過去のことはよく知らなかった。