「どうして!?」

「あの皇女たちを殺したって状況は何も変わらないさ。むしろ悪くなる」

「でも、家臣たちの気持ちは晴れる」

 再び静寂が僕らを包んだ。

「ごめん、みんなの思いまで僕は背負えない。でもメリッサが笑ってくれるならなんだってする」

「だったら……」

「暗殺に手は貸さないよ。それでメリッサが心の底から笑えるとは思えないから」

 メリッサは立ち止まってしまった。

「帰る」

「メリッサ……、君はこれ以上自分を縛り付けない方がいい」

 言ってからしまったと思った。僕の言葉は予想以上にメリッサを傷つけてしまったようだ。メリッサの切れ長の目が涙をこらえるように伏せられた。

「みんながみんなセラのように自由に生きられるわけじゃないの! ……セラはどこへでも好きなところへ飛んでいけばいいんだ」

 メリッサは背中を向けて走り出してしまう。メリッサだって自分の意志だけで黒い刃の首領をしているわけじゃない。そんなことは分かり切っていたことだったのに……。

「メリッサ!」

 メリッサの水色の髪が夜の闇へととけていく。彼女の姿は瞬く間に消えてしまい、伝えられなかった想いは心の中に重くのしかかる。僕はただ飛んでいきたいわけじゃない、君と一緒に飛びたいんだ。