「探索に必要な品や食料もすべてパミュー殿下が用意してくださる。途中でひろった魔結晶はすべて手に入れたチームのものだ。これ以上の厚遇は望めないぞ」

 監獄長の言葉に冒険者たちはさらに盛り上がったけど、黒い刃のメンバーたちは席を立ちあがって出て行ってしまった。

 彼らの中には帝国に恨みを持つ人が多い。グランベル王国が侵略されたのは割と最近のことなのだ。仲間や親族が血を流した記憶がまだ色濃く残っているのだから仕方がないと思う。

 出ていくメリッサと目が合った。「セラは連中に味方するの?」そんなもの問いたげな視線だ。あとで話し合うしかないだろうな……。久しぶりに重力の呪いにかかってしまったような、いや、あのときよりももっと重い、そんな気持ちになってしまった。


 仲間たちと別れて家路を急いだ。なんとなくだけどメリッサが待ってくれている予感があったのだ。そして、その予感は間違ってはいなかった。

 角を曲がると、月影に隠れるように、民家の壁にもたれかかったメリッサがいた。

「少し歩かない?」

 誘ってみると、メリッサは無言のままについてきてくれた。僕らは湖の方へ向かって歩いた。

「メリッサは不本意かもしれないけど、僕は帝国に協力するよ。やっぱり、古代文明の遺跡は気になるからね。あと、デザートフォーミングマシンが見つからないように手をまわすつもり」

 マシンのある部屋は他の冒険者に見つからないように偽装はしてある。簡単にはバレないと思うけど、不測の事態というのも考えられるのだ。いざというときは通路を破壊してでも発見されないようにするつもりだ。

 ずっと黙ったまま僕の話を聞いていたメリッサが口を開いた。

「セラは帝国が憎くないの?」

「憎いか……。それはわからないよ。こんなところに流刑にする帝国のやり方は憎たらしいさ。でもそのために誰か個人を恨むことは難しいんだ。今回来た皇女を殺せばこのモヤモヤは晴れるのかな? 僕には無理だよ。それにあの人たちは悪い人じゃない」

「私は両親を帝国に殺されたわ。タナトスだってギャブルだって大切な人をたくさん失ったのよ」

「それは、わかっている……」

「セラ、…………黒い刃が皇女たちの命を狙うとしたらどうする?」

 答えはすぐに出ていた。でも、それを口にするのが辛くて僕は口ごもる。だけどメリッサに対しては真摯でいたい。

「止めるよ。暗殺は僕が阻止する」