「そうそう、セラ、ヤギは届いたかしら?」

 不意にエリシモさんが明るい声を出した。エリシモさんは律義に約束を果たして、雌ヤギを飛空艇で送ってくれたのだ。今は地下菜園で鶏と一緒に暮らしている。

「あ、いただきました。ありがとうございました。おかげでミルクからチーズなんかも作れるようになったんですよ。僕の作るチーズケーキは仲間にもすごく評判なんです」

「まあ、セラのチーズケーキ? 私もぜひ食べてみたいわ」

「それじゃあ、今度の探索に焼いていきますね。お茶の時間に食べましょう」

 すかさずパミューさんが口を挟む。

「私の分も忘れるなよ」

「え~、パミューさんも?」

「おい、エリシモと扱いがずいぶん違うではないか!」

「だって、さっきから僕の首をちょん切るとか言っていたし……」

「それは、その……、可愛さ余って憎さ百倍というか、なんというか……」

 相変わらず困ったお姫さんだ。仕方がない、パミューさんの分も焼いていくとしよう。それから毒見を楽しみにしているエイミアさんの分も忘れずにね。



 監獄長の屋敷にはエルドラハのトップチームが集められていた。「黒い刃」「カッサンドラ」「ボルカン」「七剣」などの錚々たるメンバーがグランダス監獄長の説明を聞いている。凄腕の冒険者たちを前に、さすがの監獄長もいつもの横柄な喋り方はしなかった。

「というわけで、諸君たちには調査隊に協力してもらい、ダンジョン最深部までの案内を頼みたい」

 今回の依頼内容を説明し終えた監獄長だったが、返事をする者はいなかった。静まり返る部屋の中でタナトスさんが手を上げる。タナトスさんは黒い刃の副長であり、メリッサの参謀役でもあった。

「監獄長も知っての通り、我々は旧グランベル王国の者だ。このような流刑地に流されたとはいえ帝国に協力することなどあり得ん」

 静かな声ではあったけど、タナトスさんの声には有無を言わさない迫力があった。

「な、なにも無報酬で頼むわけじゃない。帝国も諸君らにきちんとした見返りを約束している。調査隊を地下十階まで送り届ければ、一人につき三百万グロームと帝国市民権が与えられるのだ」

 どこからか口笛の音が漏れた。

「ということは、この砂漠からおさらばできるってわけか?」

「その通りである」

「そいつはすげえ!」

 最初は反発していた冒険者たちも破格の報酬に気を変えたようだ。今や浮かない顔をしているのは黒い刃の面々だけである。