重力の呪いが高負荷トレーニングのようになったのだろう。まるで優良ハンター養成ギブズだね。以前とは比べ物にならない力が満ちている。

「セラ……?」

 リタも驚いたように口をパクパクさせていた。僕もびっくりだよ。剣を引き抜くとガルムはドサリと音を立てて床に沈んだ。

「リタ、怪我の具合は?」

 張り詰めていた緊張が解けたせいか、崩れ落ちそうになるリタを受け止めた。重い鎧を付けているのに軽々持ち上げられるだなんて、自分でも信じられないくらいだ。って、喜んでばかりもいられないぞ。リタを抱えた手にどろりとした血がついている。急いで治療しないと出血多量で死んでしまうかもしれない。

「セラ、すごいんだね。アンタなら一人でも地上に帰れるかもしれない。どうせ私はもうすぐ死ぬ。このまま私を置いていって」

「バカなことを言わないで。すぐに治療するから」

「ふう……、もう目がかすんできたよ。でも、こんなかわいい子の腕の中で死ねるんだ。私の最期もまんざらでも……えっ?」

「ごめんね、治療をするから少し我慢してね」

 修理を発動するためにはリタの肌に直接手を振れなくてはならない。そうやってリタの体を調べて、魔力を送り込む必要があるのだ。僕はリタを抱えながら首筋に手を伸ばした。

「どういうこと? 痛みが消えていく……」

 治療には二〇分くらいかかったから、その間に僕が獲得したジョブやスキルについて説明した。

「よし、これで傷は完治したはずだよ。どう、痛いところはない?」

「ないけど、まだ少しフラフラする……」

「それならどこかで休んでいこう。もう少し落ち着ける場所へ移動するね」

 両腕でリタを抱え上げるとリタは腕の中で身を強張らせた。

「ごめんね。でもここだと、いつ魔物がやってくるかわからないから」

「いいの。男に抱え上げられる経験なんて初めてだけど、そう悪いもんでもないかな……」

「そ、そう?」

「なんか照れるよね……」

 照れるのは僕の方だ。だって、男の子じゃなくて、男って言われたのは初めてだったから。リタの体に負担をかけないように、優しく、力強く運ぶことを心掛けた。