目の前で倒れている人に駆け寄ったけれど、すでにこと切れていた。傷口を確かめてみると鎧ごと胸を切り裂かれて絶命している。襲ってきたのはかなり強力な魔物のようだ。死体は全部で四つ。戦闘要員の半数近くが亡くなってしまったというのか!? 修理の力を使っても死んだ人を生き帰らすことは不可能だ。悲しいけど諦めるしかない。

「グッ……」

 煙幕の中でくぐもったうめき声が聞こえた。

「誰かいるの?」

「セラ……逃げて……」

「その声はリタ! 今行くからね」

 落ちていた剣を握りしめて魔物の影が揺らめく方へ移動した。



 一〇メートルも進むと煙は薄くなり、目の前の光景が分かるようになってきた。そして僕は愕然とする。全身血まみれになったリタが巨大な犬の牙をギリギリのところで受けているところだった。

「目が四つある犬……ガルムか!」

 ガルムは地獄の番犬と恐れられる魔物で、血のように赤い目が四つもあるのが特徴だ。このガルムは体調が三メートル以上はあり、針金のようにごわごわした銀色の毛が全身を覆いつくしている。

「セラ、長くはもたない……、早く逃げて!」

 絞り出すような声でリタが警告する。だけどリタを置いて逃げられるわけがない。リタは僕に優しくしてくれたんだ。なんとしても助け出さなきゃ。

 さいわいガルムは僕のことを気にしていない。僕がまだ子どもだと思って油断しているのだろう。敵わないまでも一太刀浴びせて、リタが反撃できるようにしてあげよう。

 重力の呪いが解けたばかりだから、足元はまだフワフワしている。よろめかないようにしっかり踏ん張って……、僕は思いっきり床を蹴って踏み出した。ところが――。

「うわあああああっ!」

 これまで縛り付けていた重さがなくなったせいで、僕の踏み込みは自分でも驚くくらい素早いものになっていた。六メートルはあったガルムとの距離は一瞬でつまり、構えていた剣が四つ目の中央に深々と突き刺さってしまう。僕、リタ、ガルム、三者とも何が起きたかよくわかっていない。

「えーと……」

 突き刺さった剣をねじるとガルムの顔面から緑色の血が溢れ出した。ガルムってみんなが恐れる魔物で、表皮も硬くてなかなか刃が通らないはずなんだよな……。スピードだけじゃなくて僕のパワーも上がっているみたいだ。