お土産の品をメリッサに渡した。メリッサはいそいそと箱を開けていく。

「きれい……」

「ガラスでできたペンなんだって。青は君に良く似合うと思って」

 この世界でペンと言えば羽ペンが一般的だ。でもこれはペン先に細い溝が掘られたガラスペンである。深い水を思わせるような透明なブルーをしていて、静謐な美しさがあった。


「ありがとう。大切にする」

「喜んでもらえたならよかったよ。飲み物を作ってくるから待っていて。帝都でココアパウダーを買うことができたんだ」

「ココア……初めて聞く」

 メリッサがダンジョンから帰ってきたら飲ませてあげようと思って、昼間のうちに砂糖とミルクも買っておいたのだ。

「甘くて美味しいんだよ。こんなに冷える夜にはちょうどいいんだ。ちょっと待っていてね」

 小鍋にココアパウダーと砂糖を入れて、弱火にかけながらよく混ぜ合わす。そこにミルクを加え、沸騰させないように温めれば完成だ。

 マグカップ二個分のココアをもって部屋に戻ると、メリッサは窓から月を見上げていた。

「月がまぶしい」

 メリッサは夜空から目をはなさずにそっとつぶやく。紺碧の夜空に浮かぶ月が砂漠の砂を白銀に輝かせていた。寒いけれどいい夜だ。

「外に出ようよ」

 僕らはココアを持ってバルコニーに出た。砂漠が雪のように輝いている。まるで雪原を見下ろしているみたいだ。

「熱いから気を付けてね」

「うん」

小さな口を軽くとがらせて、フーフーと息を吹きかけているメリッサがかわいかった。

「とっても美味しい」

「気に入ったのなら、また飲ませてあげるね。ココアパウダーはまだたくさんあるから」

「うん。また夜に来てもいいの?」

「いいよ。メリッサの好きな時に来て」

「ん……」

 メリッサが頭を僕の肩に乗せてもたれかかってくる。

「少し暖かくなってきた。もう少し月を見ていてもいい?」

「いいよ、もう少しこのままでいよう」

 今日のメリッサはちょっぴり甘えんぼうだ。たまにはこういう日があってもいいと思う。

 でも、不意に僕はエリシモさんのことを思い出してしまった。不意打ちとはいえ、僕はあの人とキスをしてしまったのだ。

 後ろめたさと甘い痛みが僕の胸を去来する。でも、もう会うこともない人だ、忘れよう。あのことは僕だけの秘密の思い出として、記憶の底の方に閉まってしまうのがいいのだと思う。