「どうしたんですか?」

「セラへのお礼の品を考えていなかったのよ。私のためにあんなに良くしてくれたのに手ぶらで帰すなんてできないわ」

「お礼なんていいですよ。帝都への旅はけっこう楽しかったですから」

 飛空艇の構造や、古文書トラップに使われていた特殊合金、様々なお土産、得るものは多かった。

「そうはいかないわよ。10万グロームくらいならすぐに用意できるけど……」

「お気遣いなく。それにエルドラハではお金は使えないんです」

「そうなの?」

「すべて魔結晶との物々交換です。それも異様に不平等なレートでね」

「ちっとも知らなかったわ」

 皇女様が一流刑地の実情なんて知るわけがないか……。

「もし僕にお礼がしたいと言ってくれるのなら、少しでもいいのでエルドラハの待遇を良くしてください。生活物資をもう少し多めに送ってくれるだけでもいいです」

「わかったわ。努力してみる」

 エリシモさんの目は真剣だった。どうなるかはわからないけど、どうせダメでもともとなのだ。期待しないで待ってみるとしよう。

「それとは別に、セラに必要な物ってない? なんならセラを監獄長にしてあげてもいいけど」

 そんなことになったらララベルの父親に恨まれてしまうな。僕には監獄放送をする趣味もない。

「地位なんて欲しくないです。しいて言えば雌のヤギが欲しいですね。乳をだすのがいいです」

 ヤギの乳があればいろんなものが作れる。料理のレパートリーもぐっと広がるだろう。

「百頭くらい送るわ」

「一頭でじゅうぶんです。そんなにたくさんの牧草はありませんから」

 グランダス湖のおかげでようやく雑草が生え始めたばかりなのだ。百頭なんていたら、すぐに食べつくされてしまうだろう。本当は牛乳の方が好きだけど、ヤギにしておいたのはそういう理由からだ。ヤギの方が少食だろうからね。

「わかった、次の飛空艇で必ず送るわ」

 それだけ言うとエリシモさんは黙ってしまった。別れはもう目前である。僕も何をしゃべっていいかわからず、ぼんやりと飛空艇の方を見ていた。

「出発準備がすべて整いました。どうぞ乗艦してください」

 乗組員の一人が告げに来て、すぐに去っていった。いよいよ、本当にお別れのときだ。

「あなたがエルドラハに行ってしまったら、もう会えないのでしょうね……」

 エリシモさんがポツリとつぶやいた。