「そ、そうか。自分では完璧におちゃめなメイドを演じ切っているつもりだったのだが、君の眼力はたいしたものだ」

 この人のこういう天然なところがウケるのだ。

「僕はどうなるのでしょう。もしかして死刑?」

 エイミアさんは小さく笑った。

「そんなことにはならないさ。パミュー殿下は本当に君を気に入っているのだ。君が帝都にとどまることを承知さえすれば、すぐに拘束は解かれる」

「でも僕はエルドラハに帰りたいのです」

「うーん……、一生懸命お仕えすれば、そのうちに里帰りを許してくださるかもしれないぞ。私から口添えしてもいい」

 そういうことじゃないんだよなあ……。

「ここで一晩よく考えたまえ。明日の朝にまた来る。そのときはいい返事を聞かせてくれ」

 出ていきかけたエイミアさんが振り返って視線を落とした。

「あのな……」

「なんですか?」

「私も君を気に入っているのだ。君は素直でよい少年だ。一緒にパミュー殿下にお仕えできれば、私も嬉しいのだよ」

 ぱたりとドアは閉じられた。困ったなあ、あんなことを言われるとますますエイミアさんに迷惑をかけたくなくなる。でも、ここで籠の鳥になるのは嫌なのだ。事態が複雑になる前に逃げ出してしまおう。

 窓から確認すると、ここは四階だった。

「へぇ、それでもこの鉄格子はアンチマジック合金なんだ……」

 魔法を使える人間も拘束できるように考えられた部屋のようだ。もっとも魔導錬成のスキルを使えば取り外すのは難しくない。「改造」や「作製」を使えば垂直の壁に非常階段を取り付けることだってできるだろう。抜け出すのは簡単だな。

 夜を待って脱出することにして、僕はのんびりとお茶菓子をつまんだ。ことを起こすに当たっては、まず腹を満たしておく。僕がダンジョンで学んだ生きるための鉄則だった。


 夜になった。窓からはマジックランタンを持った兵士の一団が通路を歩いていくのが見える。巡回兵の数は一斑につき十人か。一瞬で倒せば警笛を吹く間も与えずに気を失わせることもできるだろう。まずは街の外へ避難して、それから今後の身の振り方を考えるとしよう。

 鉄格子に手をかけて「解体」を使おうとしていたら、部屋のドアがノックされた。大急ぎで窓を閉めて、なにもなかったように取り繕う。

「セラ、入るわよ」

 やってきたのはエリシモさんだった。