はっきりと告げると、パミューさんは信じられない光景でも見るような顔になった。

「なっ、おまっ……」

 否定されることに慣れていないのだろう。二の句が継げない状態になっている。

 この状況をみてエイミアさんまでとりなしてきた。

「セラ殿、よく考えられよ。このような名誉なことはないのだぞ。今は慣れない都の生活に戸惑っているだけだ。私だって何なりと力になる。悪いことは言わない、パミュー様のおそばにいるのが君にとっての幸せなんだ」

 幸せの定義を他人がどうこう言う方が変だと思うよ。

「エイミアさん、お気持ちは嬉しいですけど僕はエルドラハに帰ります」

「しかし――」

 二人とも悪い人ではないんだけど、権力者特有の身勝手さが鼻につくのだ。

「エイミア、セラを捕えよ!」

 やっぱりこうなるか……。激高したパミューさんがエイミアさんと騎士たちに僕の捕縛を命じた。パミューさんが知っているのは、僕の治癒の力と料理の腕だけ。戦闘力については理解していないからだろう。

 ここにいる人たちをねじ伏せるのは簡単なことだ。さらに言えば宮殿からの脱出だってそれほど大変じゃない。でも、下手に暴れたらエルドラハの仲間に迷惑がかかるかもしれない。それに僕を取り逃がしたことでエイミアさんが罰せられる可能性もある。

 クールな軍人ぽい人だけど、たまに見せる天然ボケがツボなんだよね……。昨晩は毒見ができなくてしょんぼりしていたから、残ったアイスクリームを分けてあげたんだけど、「すまぬ、この恩は生涯忘れぬ!」とか言いながら、涙ながらに食べていた。

 叱責だけならともかく、降格とか減俸とかはかわいそうだ。ここは大人しく捕まって、後で抜け出すとしよう。


 連行された場所は牢屋ではなく、綺麗な小部屋だった。小部屋と言ってもビジネスホテルのシングルルームよりずっと広い。豪華な家具にお茶やお菓子の用意までしてある。ベッドだってダブルだ。そのかわり窓には鉄格子が嵌められていた。

「セラ殿、しばらくはこの部屋におられよ」

 エイミアさんの口調に、思わず笑ってしまった。

「何が可笑しいのだ?」

「だって、話し方がすっかり軍人になっていますよ。メイドさんはそんな喋り方はしませんから」

「う、うむ……。今さら隠すこともないから打ち明けるが、私はメイドではない。パミュー殿下お付きの武官だ。君を監視していた」

「知っていましたよ。雰囲気やしぐさがどう見ても軍人さんでしたからね。そんなに背筋の伸びているメイドさんはいませんよ」