古文書はパミューさんが持っていってしまったそうだ。なんでも、エリシモさんのそばに置いておくと、無理して読んでしまうから強引に取り上げたそうだ。研究熱心なのはいいことだと思うけど、体に障ることは控えてほしい。

 さいわい今朝もエリシモさんはご飯を完食してくれた。体力もついてきたようだから、今日の治療も予定通り行うとしよう。


 本日は首の周りに刺さっていたトゲをすべて抜くことに成功した。傷跡も残らずにつるつるになっている。エリシモさんは麻酔で眠ったままなので、しばらくはこのままにしておこう。

 そっと部屋から退室すると、待ち構えていたパミューさんとエイミアさんに出くわした。

「これはパミューさん」

「治療は終わったか?」

「はい、エリシモさんは順調に回復していますよ」

「それはよかった」

「ところで、お願いしたいことがあるのですが」

 お昼までにはまだ時間がある。だったらずっと考えていた計画を実行に移したかった。

「なんだ? 必要なものがあるのなら用意させるが」

「そうではありません。エリシモさんはまだ寝ているので、その間に帝都見物をしたいのです」

 せっかく帝都グローサムまで来たのだ。街を見物して、エルドラハでは手に入らない物などを買ったり、仲間へのお土産を用意したりしたい。いい機会だから街へ出かけてみようと考えたのだ。ところがパミューさんはいい顔をしなかった。

「それは許可できない。お前は囚人なのだぞ、セラ。それに勝手に出歩かれて、トラブルなどに巻き込まれたら困るだろう? お前はかわいい顔をしているから、誘拐されてしまうかもしれないぞ」

 パミューさんは僕を子ども扱いしているようだ。ダンジョンに潜る冒険者がそこら辺のゴロツキ風情に誘拐される恐れなんてないのにな。

「そんなあ、帝都に来たらいろいろ買いこもうと思っていたのになあ……」

 パミューさんがぐいと顔を近づけてきた。真剣なまなざしで僕を睨んでいる。

「そんなことよりもセラ、お前は不思議な料理が作れるそうだな」

 エイミアさんの方を見ると視線を泳がせてそっぽを向いた。さてはエイミアさんが昨日の料理のことをパミューさんにチクったんだな。

「エイミアの話ではこの世のものとは思えないほどの美味らしいじゃないか。一つ私にも作ってくれ」

「えぇー……」

「なんだ、その不満そうな顔は? おい、これは命令だぞ。素直に聞かないとただでは済まさん! 舌をちょん切ってしまってもいいのか!」