「今は『修理』のスキルしか使えませんが、経験を積めば新たなスキルも発現するでしょう」

 システムさんが補足してくれた。

「修理ですか?」

「この世に存在するどんなものでもなおすことができるスキルですよ」

 夢が広がるなあ。

「素晴らしいジョブをいただいて感激です。でも、僕はそれに見合うような人間でしょうか? 教えてください、僕はどのように生きていけばいいのでしょう?」

 僕が死ぬようなことがあれば他の人物の魂を後任に充てなければならないくらい、セラ・ノキアというのは重要な人物のようだ。そんな人間として僕はどういう人生を歩んでいけばいいのか、ちっともわからなかった。

「好きなように生きてください。我々としてはセラ・ノキアが天寿を全うしてくれればそれでいいのです」

「僕の好きに?」

「そうです。貴方も他人が敷いたレールの上を進むのはいやなのではありませんか?」
昭和のロックンローラーみたいなことを言うなあ。でも与えられた役割を演じるだけの人生はつまらない。

「エルドラハを出て行ってもいいんですか?」

「それも自由です。なんなら飛空艇を強奪してもいいですよ」

「そこまで物騒なことは考えていません」

「貴方の性格的にそれはないでしょうね」

「はい、せいぜい密航くらいです」

 システムさんは小さく笑った。

「どうぞ頑張って精いっぱい生きてください。ただ、これだけは覚えておいてくださいね。良き行いには良き報いがあるということを」

 情けは人の為ならず、か……。

「頑張ります」

「貴方の道行きに幸多からんことを祈ります」



 世界が暗転して、僕は迷宮の小部屋に戻ってきた。いきなり時空を移動したから、なんだか脱力してしまったよ。でも落ち着いてくると、ピルモアに蹴られた部分が再び痛み出した。服だってあっちこっちすり切れてボロボロだ。ちょうどいい機会だから、さっそくこの服を『修理』のスキルで直してみようかな。

 生地のほつれた部分に指を当てると、服の構造が頭の中に入ってきた。単に材料とか縫製とかいうことだけじゃなくて、もっと細かいところ、存在の根源的な部分を悟ったって感じがする。すると、どこに自分の魔力を送ればいいのかが理解できた。

「『修理』って、そういうことか……」