部屋に戻るとエリシモさんは目を覚ましていた。

「顔のトゲが取れたせいか、なんだか食欲がわいてきたわ」

 少し眠ったので顔色も良くなっているようだ。

「特製の牡蛎粥を作ってきましたよ。これを食べればもっと元気になりますからね」

 内臓の働きを助け、体力を補ってくれるはずである。

「まあ、いい香り。でも全部食べられるかしら」

 古文書のトラップにかかってから十日余り、エリシモさんはご飯をほとんど食べていないそうだ。

「無理をなさらず、食べられる分だけでいいですからね」

 そうは言ったけど僕には自信があった。

 侍女にお粥を食べさせてもらったエリシモさんは目を丸くした。

「こんなに美味しい料理は初めて。宮廷で出されるどんな料理もこれほどのものはありませんでした」

「今日は特に時間をかけて作りましたからね」

 僕はちょっとだけ胸を張ってみせた。エリシモさんは侍女からスプーンを受け取り、自分ですくって食べている。相当気に入ってもらえたようだな。


 食が細くなっていたエリシモさんだったけど、特製のお粥は完食してくれた。これだけ食べられるのなら明日はもう少し量を増やしてもいいかもしれない。

「明日の朝食は野菜と鶏肉のスープを作ってみますね。しっかり食べて早く良くなりましょう」

「うふふ、なんだか明日が楽しみだわ。こんな気持ちは本当に久しぶり」

 夜は早めに休むように勧めてから自分の部屋へと戻った。


 翌日になるとエリシモさんはだいぶ元気になっていた。こけていた頬もやや膨らみを取り戻し、肌にも艶がでている。こうしてみると魅力的な人だな。今日のエリシモさんはメガネをかけている。

「なんだか学者さんみたいに見えますね」

「そうかしら? たしかに私は古代文明の研究をしているのですけどね」

そう言えば固有ジョブも考古学者だったな。診察をする時にスキャンで見てしまったのだ。

「それで古文書を読もうとしていたんですね」

「ええ。あの文字を解読できるのは帝国にも数人しかいないのよ」