「なんだこれは! これが料理なのか?」

 予想していたものとは違う光景に、料理人たちがざわめいている。鍋やフライパンを使った料理もするけど、魔法薬膳を作るときはこちらの方がやりやすいのだ。

 すべての材料が浮かび上がると、それらは光速で回転しながら光を放った。よおし、いい感じになってきたぞ。ここから汚れや骨、灰汁などの要らない成分は排除して、必要なものだけを厳選していくのだ。

 今や料理は光の帯のようになっている。一時間くらいはこの状態を保ってやると、素材のうまみが完全に引き出されるはずだ。微細な魔力操作が必要だけど、ここが腕の見せ所である。絶えず魔力を送り続け、最高の状態に仕上げていった。


 一時間後

 厨房に芳醇な香りが溢れていた。今や素材のうまみは混然一体となり、その味は至高へと昇り詰める段階にある。

「今だ!」

 ここで緑晶の成分を加える。もち米も完璧な状態になってきたから、そろそろ銀晶の出番だ。最後に塩と金晶で味を調えて……。

「エイミアさん、もうすぐできます。お皿、お皿!」

「は、はいぃ!」

 呆けていたエイミアさんが慌てて両手にお皿を持ってきた。僕は緩やかに回転している光の帯をそっと皿に盛り付ける。するとそこにはホカホカと湯気を立てる牡蛎粥が現れた。

「こ、こんなことが……」

 驚きで声を失っているエイミアさんにスプーンを渡した。

「どうぞ」

「は、何でしょうか?」

「皇女様に食べさせる前に毒見が必用かなって思ったので」

「はあ……、それでは失礼して」

 エイミアさんは半匙ほどお粥をすくって口に入れると、びくりと体を震わせた。

「っ!」

「いかがですか?」

「これは……、こんな料理って……」

 思わずもう一すくいしようとして、エイミアさんはハッと気がついたようにスプーンを離す。無意識にもう一口食べようとしてしまったようだ。

「と、とても美味しいです。世の中にこんな料理が存在するなんて……」

「それはよかった。では冷めないうちにエリシモさんのところへ持っていきましょう」

「はあ……」

 エイミアさんの視線は未練がましく粥の上に注がれたままだ。

「ほら、早く!」

「は、はいっ! 失礼いたしました」

 僕らは足早に厨房を後にした。