「そんなに豪華なものは期待しないでください。でも頑張って美味しく作りますからね。さあ、目を閉じて少し休んで。体力回復には寝るのがいちばんなんですから」

「わかったわ」

 エリシモさんが素直に目を閉じると、すぐに安定した寝息が聞こえてきた。疲労困憊していたのだろう。だけど呼吸に乱れはない。これなら少し外しても大丈夫かな。側近の人々に経過をよく観察するようにお願いして、僕は料理を作るために厨房を借りることにした。


 厨房には僕の世話役になっているエイミアさんがついてきた。勝手なことをしないように見張るためだろう。

「何をお作りになるのですか?」

「そうだなあ、帝都グローサムで旬の食材って何でしょう?」

「さあ、食べ物については詳しくありません」

 おいおい、そんなメイドさんがいるのかな? まあ、この人の正体は軍人さんだから仕方がないか。厨房の料理人に尋ねると今は夏牡蠣が旬だと教えてくれた。

 おお、今は夏だったのか! 年がら年中渇いた砂に囲まれていたから、すっかり季節の感覚がなくなっている。

「料理」のスキルを展開させ、美味しそうなレシピを頭の中で検索していく。お、牡蛎を使ったお粥か、これなんかいいな。病気で弱った体を優しくいたわり、体力も回復してくれるみたいだぞ。調理時間が長いけど、その分スペシャルな効果を発揮するようだ。

「エリシモさんは牡蛎料理を食べられます?」

「はい、牡蛎は殿下の好物でございます」

 料理番がそういうのなら間違いないだろう。

「じゃあ、今から言う材料を持ってきてください。ネギ、ショウガ、牡蛎、水、イーライ酒、骨付きジャイロックのモモ肉――」

 さすがは宮廷の厨房だけある。僕が頼んだ素材が瞬く間に並べられていく。珍しいハーブやゼギン貝の貝柱の干物なんかも揃っているぞ。これなら最高の料理ができるはずだ。

「あの、魔結晶も料理に使うのですか?」

 エイミアさんが心配そうに訊いてくる。魔結晶をそのまま体内に入れると中毒症状を起こしてしまうのだ。

「魔導錬成の技で食事に魔法をかけるんですよ。体にいいことしかない料理だから安心してください」

 用意された魔結晶から地水火風雷闇光静動すべての魔素を取り出して、必要な分を料理へ練りこんでいくのだ。

「それでは始めますので、皆さんは少し下がっていてください」

 見物している料理人たちを下がらせて「料理」のスキルを展開した。僕の魔力が素材に込められるたびに、もち米や牡蛎が空中に浮かび上がる。