ブチ、ブチ、ブチ、ブチッ!

「くっ!」

 ブチ、ブチ、ブチ、ブチッ!

「うはっ!」


 パミューさんが身をくねらせながら僕の肩越しに治療を覗き込んでいる。

「……パミューさん、いちいち反応するのをやめてもらえませんか?」

「すまん、ゾクゾクするのだが見るのをやめられんのだ」

 こういうのがお好きなんですね。妹さんが苦しんでいるというのに困った人だ。

「それから肩を掴むのをやめてください。動きにくいので」

「かたいことを申すな。第一皇女の手が触れるなど、最高の栄誉なのだぞ」

「治療の妨げでしかありませんよ……」

 注意したのだけど、パミューさんは僕の肩を掴んだまま、ずっと治療を観察していた。


 午前中から始めた治療はお昼前に終了した。とりあえず顔のトゲはすべて取り払い、筋肉や肌も綺麗に修復してある。神経もうまくつながっているので表情がなくなるなんてことも起こらないだろう。

「そっと顔を動かしてみてください。痛いところや違和感はありますか?」

「大丈夫みたい。まだちょっと動かし辛いけど」

 疲労でぐったりとしていたけど、エリシモさんは鏡を見ながら満足そうだった。

「ありがとう。これで心置きなく笑うことができそうね。それにやっとメガネがかけられるわ。ずっと視界が霞んでいたからこれだけでも本当にありがたいわ」

「でも、まだ読書はダメですよ。疲れてしまいますからね」

エリシモさんは苦笑する。

「わかっているわ。体が鉛のように重いから当分はなにもできなさそうよ」

「トゲだけではなくて、長い療養生活と痛み止めのお香のせいで体力が弱っているのです。あのお香はもう焚かないようにしましょう。今から体力のつく料理を作ってきますので休んでいてください。できたら眠って」

「あなたが料理を作るの?」

「そうですよ。医食同源という言葉があります。体に良い、美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようとする考え方のことです。料理というのは健康にとってとても大切なものなんです。もっとも、僕の料理は魔導錬成で作るので、ちょっと特殊なんですけどね」

「特殊というと、お薬みたいに苦かったりするの?」

 エリシモさんの眉毛がさがって困った顔になった。僕よりもお姉さんだというのに、その表情は小さな女の子みたいでかわいらしい。きっと苦いものが苦手なんだな。

「僕は魔結晶から成分を抽出して、特別な効果を持つ料理を作るんです。味も最高ですよ」

「なんだか楽しみだわ。どんな料理が出てくるのかしら」