けっきょく僕の意見が通り、エリシモさんを麻酔で眠らせている間にトゲを抜くことが決まった。僕が傷を跡形もなく治すというのはプラッツェルから伝わっていたようで、お二人も信じてくれたようだ。プラッツェルの顔の痣がなくなっていたことも、賛成してくれた大きな理由だろう。

 エリシモさんの体に負担になるので治療は三回に分けて行うことを伝え、まずは一番目立つ顔のトゲから始めることにした。

「それではスキルで眠ってもらいますね。大丈夫、起きたときには顔のトゲはなくなっていますよ」

 それでもエリシモさんは不安そうだったけど、麻酔が効き始めるとゆっくりと目を閉じた。

 頼んだものはすべてそろっているな。手を洗うための水。清潔な布巾、魔力を補うための山盛りの紫晶。どれも抜かりはなさそうだ。

「さて、始めますか」

 僕は十五人の騎士に取り囲まれながら治療を開始した。この騎士たちはもちろん僕の助手なんかじゃない。皇女を守る護衛の方々だ。治療が失敗したときは僕を捕縛するための人員にもなる。万が一捕まったらどこかをちょん切られてしまうのだろう。

 麻酔の深度を確認しながら「解体」と「抽出」でトゲを抜いていく。多少強引ではあるけれど、なるべく傷はつけないように気を付ける。それでも、やっぱり細胞は傷つくし、血はにじみ出るのだ。

「おい、本当に大丈夫なのか?」

 パミューさんが口を出してくる。外で待っていてといったのだが、魔導錬成が気になるらしくて、強引に手術に立ち会っているのだ。

「少し黙っていてください。気が散ります」

 このトゲは本当に厄介だ。普通の傷口と違って「修理」までもが効きにくくなる。古代文明の奴らは相当な意地悪者がそろっていたんだな。

「貴様、パミュー様に何という口の利き方を。もう黙ってはおられん」

 そばで見ていた騎士がまたもやうるさいことを言いだした。


「治療中なのが見てわからないの? エリシモさんの顔に傷が残ったら責任が取れるんですか?」

 相手なら後でいくらでもしてあげるから、今は治療に専念させてほしいのだ。

「くっ……」

 まだ何か言いたそうだったけど、騎士は不承不承下がっていった。

 トゲを十本抜いては修理を繰り返して、僕も段々慣れてきた。トゲを抜くのも肌を修理するのもコツがつかめてきたぞ。これなら一気にニ十本くらい抜いても平気だろう。

 ブチ、ブチ、ブチ、ブチッ!

「ひっ!」