トゲは全部で数千本もある。一つ一つをこの調子で抜いていくのは無理だろう。なんといっても時間がかかり過ぎる。エリシモさんも疲れてしまったので、とりあえず今日は休むことになった。

僕もパミューさんに自室を与えられたので、今夜は宮殿に泊まることになった。天蓋付きのキングサイズベッドだなんて初めての経験だよ。

「用があればこの者に言いつけよ。それでは明日の治療も頼むぞ」

 それだけ言ってパミューさんは去っていった。

「メイドのエイミアと申します。何なりとお申し付けくださいませ」

 エイミアさんは黒髪をアップにしたお姉さんだった。涼やかな眼もとに、厚い唇。態度は事務的で愛想はない。

 あれ、この人はメイドの割にたくましくないか? 服の下に隠れているけど筋肉質な体つきをしているような気がする。動きも機敏で脚運びに隙が無かった。

 試しにスキャンをかけて見たらやっぱりだ。この人のジョブはナイフファイターで軍人だった。戦闘力判定はCとなかなかの腕前である。

 要するに僕の監視役というところだろう。さすがに旧グランベル王国の貴族の末裔を野放しにするほど宮廷は甘くないということか。まあ、僕は子どもだし、それほどの警戒もしていないようだ。こっちだって反乱を起こす予定もない。

「お夕食の前にお茶でもお飲みになりますか?」

「いただきます。それと魔結晶を500gほどいただけますか?」

「種類は何にいたしましょう?」

 魔力を補充したかったので訊いてみたけど、あっさりともらえるようだ。さすがは宮廷、お金持ちなんだね。

「紫晶をお願いします」

 どういうわけか、僕は紫晶との相性がいちばんいのだ。「抽出」による魔力補充もすんなりと行える。

「承知いたしました。少々お待ちください」

 エイミアさんは部屋を出ていき、僕はようやく一人になった。でも、どうせまだどこかに監視の目はあると思う。おかしなことはせずに大人しくしておくことにしよう。

 それにしてもエリシモさんの治療はどうしようかな。やっぱり一本ずつ抜いていくのは現実的じゃない。年単位の仕事になっちゃうもん。やっぱり「麻酔」で眠らせて、強引に抜いてしまおうか。無理に抜くのだから傷になってしまうけど、それは「修理」で治せばよいことだ。

 皇女様にそんな無礼を! とか言って叱られそうだけど、とりあえずはこれしか思い浮かばない。明日になったらエリシモさんとパミューさんに相談することにしよう。