「気を付けて。レバーを下げて開こうとすると、ブックカバーが発光してトゲが放出されます」

 攻撃型のロックになっているわけだ。どれどれ……。

 このブックカバーは空中の魔素から魔力を作り出してトゲを放出しているようだ。トゲは微細だし、射程も短いから消費魔力は少なくて済むわけか。なるほど、おもしろいな。

「ふーん、鍵の方はたいしたしかけじゃないな。暗号を音声入力するタイプだけど、外しようはある……」

「開くことができるのですか!?」

 エリシモさんが興奮した面持ちで僕を見つめていた。あろうことか半身を起き上がらせている。

「寝ていてください。無理をしてはいけません」

「質問に答えて。本当にそのロックを解除できるのですか?」

 このお姫さは根っからの研究者のようだ。自分の体よりも古文書のことが気になるらしい。消耗が激しくて起き上がるのだって辛いはずなのに、そんなことは忘れてしまったかのようだ。

「できますよ。解除してもいいんですか?」

「はい、お願いします」

 エリシモさんは並々ならぬ興奮で頷く。

「その代わり約束してくださいね。読むのは治療が終わってからですよ」

「うっ……、承知しました」

 今は毒が抜けて楽になっているけど、どうせすぐにぶり返すのだ。無理をさせることはできないのである。

「解体」を使うとすぐにロックは簡単に外れた。試しに開いてみたけど、トラップは反応しない。

「はい、解除できましたよ」

 チラッと中を見たけど、やっぱり古文書に書かれてある内容は読めなかった。

「ありがとうございます、ありがとうございます。これで研究が進められます」

 よほど嬉しかったのかエリシモさんは涙を流して喜んでいた。

「それでは治療に取り掛かりましょう。まずは体を治さなければ研究もできませんからね」

「はい、お願いします」

 患者との信頼関係はこれで結ばれたかな。僕は注意深くトゲに触れ、何とか抜くことを試みた。


 夕方になってようやくトゲを一本抜くことができた。このトゲはスキルが効きにくい。麻酔」と「解体」を併用して、一本抜くのに一時間もかかってしまったのだ。緊張と魔力の消費で僕も疲れてしまった。