「今からエリシモさんの毒を抜き出します。何か毒を溜めておける器をください」

 すぐに侍女らしき人が深皿を持ってきた。

「少し我慢してくださいね」

 エリシモさんの頬に触れながら「抽出」を使うと、トゲの刺さったところから黒い液体が霧のように立ち上がり、空中でウズラの卵ほどの小さな球体になっていった。

「これがエリシモを蝕んでいた毒か?」

 パミューさんが近づこうとしたので、それを制する。

「あんまり近づいちゃダメですよ。死ぬことはないですが、皮膚がかぶれてかゆくなりますから」

 忠告するとパミューさんは一歩後ろに下がった。

「とりあえず毒は抜きました。どうですか?」

 エリシモさんは小さな笑顔を見せる。

「かなり楽になったわ」

 トゲが刺さったままなので喋りにくそうではあったけど、少しは元気になったようだ。

「でもトゲは抜けていないので、時間が経てばまた毒に侵されてしまいます。次はこのトゲを抜く方法を考えましょう。ところで、このトゲはどうやって刺さったのですか?」

 先に原因を聞いておいた方がいいよね。解決の糸口が見つかるかもしれない。

「古代文明の古文書のせいなのです。帝国が手に入れた古文書があるのですが、それを開こうとしたらこのようなことになってしまいまして」

「その古文書はどちらに? 差し支えなければ見せていただきたいのですが」

「それならそちらの棚に。だれか、古文書を持ってきてセラさんに見せて差し上げなさい」

 言いつけられた侍女は顔を真っ青にした。エリシモさんの姿を見れば怯えるのも仕方がないことだ。本を手することによって呪いが発動することを心配しているのだろう。

「僕が自分で取りますよ。場所を教えてください」

 侍女に案内してもらって部屋の隅の本棚のところまでやってきた。鍵付き扉を開けると中にはずらりと古い本が並んでいる。背表紙に文字の書かれたものもあったけど、古代文字らしく僕には読めなかった。

「そちらの金属のブックカバーのついたものがそうです」

「これが古文書?」

 その本は図鑑のように大きく、分厚くて、さらにごつごつとした表紙に覆われていた。古文書というよりは耐衝撃性に優れた軍事用のノートパソコンみたいである。ブックカバーは金属でできていて、削りだしのような艶消しの色が鈍い光を放っていた。ゼロハリバートンのカッコいいアタッシュケースみたいだ。ブックカバーの表側には日記帳のように留め金がついている。

 指を伸ばそうとしたそのとき、後ろからエリシモさんの声が耳に入った。