ベッドに近寄ると痩せて青白い顔をしたエリシモさんが横たわっていた。姉と同じ金髪だけど、こちらはまたタイプの違う美人さんだ。なんかこう図書館にいそうなタイプっていうのかな? お勉強のできそうな知的な顔をしている。

 驚くことに左頬から首のあたりにかけて、きらめく無数のトゲが刺さっている。ひょっとしたら服の下にもトゲは刺さっているんじゃないのか?

 他の部分は青白いのに、トゲの刺さったところだけは赤く爛れている。トゲはかなり微細で、顔に刺さった分だけでも千本くらいはありそうだった。

 僕の姿を認めたエリシモさんが声をかけてきた。

「新しい治癒師の方ね。よろしく……」

 声を出すのもやっとというくらい衰弱しているようだ。それなのに僕にあいさつをしてくるなんて、姉よりもずっと礼儀正しい人なのだろう。

「魔導錬成師のセラ・ノキアです。よろしくお願いします。さっそく診察をしてみましょう」

 スキャンで調べようと手を伸ばしたのだけど、またもや騎士が茶々を入れてきた。

「無礼者、こちらは帝国第二皇女のエリシモ様だぞ。お体には触れずに診察するのだ」

 なんとも理不尽なお達しである。

「そんなの無理ですよ。トゲの構造を深く知るためには触れてみなければわかりません」

「貴様の治癒魔法はその程度か?」

 治癒魔法なら触らなくても魔力を送りこめるけど、僕の「スキャン」や「修理」は違うのだ。

「だから、僕は魔導錬成師であって、治癒師じゃないんですってば」

「つべこべ抜かさずにさっさと治療を始めんか」

 見かねたエリシモさんが声をかけてきた。

「よい。見ればまだ子どもではないですか。構わないから私に触れなさい。そうしなければ診療ができないのでしょう?」

 病人なのに気遣いのできるいい人だ。僕の中でエリシモさんの好感度が上がった。

「それでは失礼します……」

 スキル「スキャン」発動。

 このトゲは魔力を物質化した金属のようで、構造は金晶や銀晶などによく似ている。「解体」で何とかなるかと思ったけど、この物質は魔力を跳ね返す性質があるようだ。治癒魔法が効かなかったというのも無理はない。僕のスキルなら時間をかければ何とかなるとは思うけど、さてどうしたものか……。

 面白い物質なので、僕はメモ帳を開いて構造を書き留めていく。

「突き刺さった先端が植物の根のように食い込んでいますね……」

 これでは無理に引っこ抜こうとすれば激痛が走るだろう。

「あとは毒か……」

 根の部分からは微量ながら毒が放出されている。皮膚が赤く爛れているのはそのせいなのだ。とりあえず「抽出」で毒を抜いてしまおう。そうすれば体はずっと楽になるはずだ。