転生前はロックンロールを愛していました。反骨主義は前世からの醸成です。

「ふむ、こんなに若いのが来るとは思わなかった。相当に腕がいいと聞いていたから、もっと年寄りの治癒師が来ると思っていたぞ」

 パミューさんは僕のことをじっと見つめてくる。でも、蔑むような印象はなくなって、代わりに好奇心がにじみ出ている。

「歳はいくつだ?」

「十三歳です」

 前世の分も勘定に入れると、実質的な精神年齢は十八歳だけどね。

「私より五つ下か」

「僕は誰かを治療するように言われて来たんですけど、患者はどこですか?」

「別室だ。先に断っておくが、この度の診療で見聞きしたことは他言無用だ。外部に漏らせばお前の首を切り落とす」

 さっきは騎士たちに手首を切り落とすと脅されて、今度は首か。ここの人たちはちょん切るのが好きなようだ。

「誰にも何も言いませんよ。患者に不利になるような情報は外部に漏らしません」

 病気というだけで差別をするような輩はこの世界にもいるのだ。腹立たしいけど人の口に戸は立てられない。だったら僕が黙っていればいいだけである。

「わかればよい。お前に診てもらいたいのは妹のエリシモなんだ」

 妹というと、その人もお姫様か。通りでプラッツェルが患者の身分を隠すわけだ。

「ご病気ですか? それとも怪我?」

「怪我……そう言っていいのだろうか? というよりは一種の呪いなのだが……」

 説明するのが難しいようだ。だったら見た方が早いか。

「わかりました。さっそく診察してみましょう」

「先に断っておくが、かなりひどい状態だぞ。これまで何人もの治癒師が診てきたが誰も治せなかったのだ」

「承知しました。最善をつくしますよ」

 僕らはそろってエリシモさんの病室へと移動した。


 病室の扉を開けると、中からむせかえるような香の匂いが漂ってきた。「スキャン」を発動して調べると、この香りは痛みを和らげるために焚かれた麻薬の一種であることがわかった。

 こんなものを焚き染めているなんて、エリシモさんの呪いというのはつらい痛みを伴うもののようだ。ずっと重力の呪いに苦しんでいた僕は、エリシモさんの境遇にすっかり同情してしまった。

 だけど、これは中毒性のある煙だぞ。そばで病人の面倒を看る人たちにも悪い影響を与えてしまう代物だ。早いところ手を付けた方がいいな。