そのとき、エルドラハでは様々なことが同時に起こっていた。中天に鎮座した輝王星(きおうせい)は月光を退けるほどに発光していたし、南の空には幾千もの流れ星が降り注いでいた。地上ではエルドラハを囲む砂が奇妙な風紋を作り、半径一〇キロにも及ぶ巨大な魔法陣となっている。その中心に居るのがセラ・ノキアであることを知る者はいない。また同時刻に地下迷宮ではピルモアのチームが強力な魔物に襲われてもいた。

「頭、ルゴンがやられました!」

「クソ、撤退するぞ。煙幕と魔法を撃ちこめ!」

「それだと、いちばん前で頑張っているリタに当たっちまいますぜ!?」

「いいからやれ! このままじゃ共倒れだ。なびかない女に用はねえ……」

 煙が迷宮の通路を満たし、風魔法や火炎魔法の攻撃がぼんやりと光った。逃げ惑う人々の足音と魔物の咆哮は交じり合い、悲劇の曲となって石壁にこだまする。そのような異様な事態の中で、一人取り残されたセラ・ノキアはうなじのあたりが火傷のようにうずき、激痛に身を強張らせていた。



   ◇



 うなじに焼きごてでも当てられたような痛みが走った。それと同時に僕は白くて長い廊下にうずくまっていた。この光景には見覚えがある。そうだ、結城隼人として死んだときに来たあの場所だ。

「お疲れ様です。……セラ・ノキアさん」

 顔を上げると見覚えのある人がいた。

「システムさん!」

「システム……間違ってはいませんね。その呼び方は気に入りました」

 内緒の呼び名を思わず口に出しちゃったけど、怒ってはいないらしい。

 これまでの苦労があったから、僕は非難めいた口調になってしまう。

「やっと三年が経ちましたけど、長すぎですよ。何度死ぬかと思ったことか」

「でもこうして生きていらっしゃる。貴方の後任を探す手間が省けたことに感謝します。魔導錬成師になれる魂は少ないのですよ」

「ついに僕にも固有ジョブが与えられるのですね」

「その通りです。ざっと体を見た感じでは、ジョブが固定しても問題はなさそうですしね」

 システムさんはしげしげと僕を見てから事務机の上の印鑑に手を伸ばした。そして書類を何枚かめくってポンポンポーンと立て続けに三回ついた。そのとたんに頭の中で声が響く。

(おめでとうございます。固有ジョブ 魔導錬成師が決定しました。スキル『修理』を習得します)