案内された場所は広い部屋だった。室内の一角に二十人は楽に座れそうな大きなテーブルがしつらえてある。よく見るとテーブルの天板は天然の一枚ものだ。継ぎ目なんてどこにもないぞ。どんな巨木から切り出したというのだろう? 砂漠で育った僕はそんな大きな木なんて見たことがなかった。

 大きなテーブルには派手な軍服を着た女性が一人で座っていて、書類の束に目を落としていた。豊かな金髪が緩やかに波打っている。目つきは鋭く、美人だけどわがままそうな印象を受けた。

 身分が高いだけに人を侮っていそうな感じなのだ。こういうのを驕慢って言うんだっけ? まあ、僕の勝手な印象なんだけど、この手の偏見っていうのは合っていることが多い。第一印象って大切だよね。直観っていうのは言語化する前の理解なんだって。

 軍服を着ているところをみると将軍の一人か何かかな? でも将軍というには年齢が若すぎる。どう見てもまだ十代じゃないか。

「パミュー様、セラ・ノキアを連れてまいりました」

 騎士が声をかけると、パミューと呼ばれた女の人が顔を上げた。人を値踏みするような、遠慮のない視線に少しだけイラっとする。

「おい、跪かんか!」

 騎士たちは僕を押さえつけて跪かせようとしたけど、脚に力を込めて踏ん張った。1トンものレッドボアを持ち上げられるパワーは伊達じゃないぞ。あれから迷宮で鍛えて、体はさらに強くなっているんだ。騎士が数人でかかっても、僕をねじ伏せることなんてできやしない。

 しばらくその様子を見守ったパミューさんだったが、おもむろに質問してくる。怒っている様子はない。むしろ僕に興味を持ったようである。

「なぜ跪かん?」

「どうでもいいことなんですけど、僕の両親はグランベル王国の伯爵なんですよ。グランベルを滅ぼした帝国の軍人に膝をつくのは、なんとなく両親に悪い気がするんですよね」

 険悪な雰囲気にならないように笑顔で答えた。

「貴様、無礼であるぞ。このお方はエブラダ帝国第一皇女のパミュー様なるぞ」

 なるほど、目の前にいるのは帝国のお姫様か。どおりで若いのに偉そうなわけだ。

「へー、エブラダ帝国ではお姫様が軍人をされるのですか?」

「そんなことはない。私は楽しいから軍を動かしているだけだ。おい、もう放してやれ」

 物事にこだわらないのか、パミューさんは僕を開放してくれた。

「かわいい顔をして強情だな」

「たまに言われます」