「ついて来い。くれぐれも大人しくしてくれよ。……頼むからな」

 プラッツェルは僕がワイバーンを倒すのを目撃してから態度が軟化している。エルドラハにいたときよりも言葉遣いまでマシになっていた。


 僕らは曲がりくねった道を進み、城の奥の方までやってきた。なんだかクネクネした通路だったけど、これは城に攻め入られたときの用心らしい。複雑な構造をしていれば目くらましになる。敵も簡単には奥に入って来られないという仕掛けなのだ。

 こうしてしばらく歩いていると立派な石造りの建物までやってきた。プラッツェルはここで取次ぎを頼み、しばらく待たされた。

「ねえ、この奥に患者さんがいるの?」

「静かにしろ。これから会うのはたいそう身分の高いお人なのだ。決して失礼な態度を取るなよ」

「はーい」

 なんだかプラッツェルが緊張している。偉そうなこいつが怯えているところをみると、相手は将軍とか大臣とかだろうか? まあ、僕には関係ないな。僕としてはさっさと治療を施して、都見物でもさせてもらえればじゅうぶんだ。

 ありがたいことにポケットの中には金晶も銀晶も入っている。都の物価が高かったとしても、これだけあればお土産くらいは買えるだろう。都にはエルドラハにはないものがいっぱいあるだろうから、デザートホークスの仲間やメリッサたちにいろいろ買って帰りたいのだ。

 通路の椅子に腰かけて待っていると、奥の扉が開いた。中から出てきたのは騎士の一団だ。全部で十五人もいるけど、どういうわけか全員が女性だった。

「ご苦労であった。この少年は我々が連れて行く。プラッツェル殿はここでお引き取りください」

「承知しました。パミュー様によろしくお伝えくださいませ」

 プラッツェルは慇懃に頭を下げている。

「セラ・ノキア、上手くやれよ」

 すれ違いざまに声をかけて、プラッツェルはもと来た道を引き返していった。一方、僕は十五人の女騎士に囲まれた形だ。いざとなれば、僕のことをすぐに取り押さえるようなフォーメーションを組んでいるぞ。隊長らしき人が厳しい口調で注意してきた。

「ここは帝国の皇女様方が暮らす静欄宮である。不埒な真似をすれば子どもといえども容赦はしない。即座に手首を切り落とすのでそう思え」

「えーと、不埒な真似ってなんですか?」

「フラフラと勝手に歩いたり、女官たちの部屋をのぞいたり、その……悪さをしないようにということだ!」

「風紀に厳しいところなのですね。承知しました」

「うむ、わかればよい」

 僕の理解が合っていたようで、騎士たちはそれ以上何も言わずに歩き出した。なるほど、ここはお姫様達が住むところだから守備兵も全員が女性のようだ。それで少年と言えども男には厳しいのだろう。

 そういえばここはいい香りが漂っている。デパート一階の化粧品売り場みたいな匂いだぞ。砂漠のエルドラハでは久しく嗅いだことのない匂いだな。

 またもや複雑な通路と階段を上がり、建物の奥まったところまでやってきた。僕にはもう自分の現在位置がよくわかっていない。

「ここに入る。部屋の中に入ったら正面の方に跪くように」

 再び僕に注意を与えてから、騎士は扉を開けた。