顔なじみになった兵士が朝ご飯を持ってきてくれた。コーヒーのいい匂いが部屋の中に広がっていく。

「すごい砂嵐だったけど飛空艇は大丈夫そうだね」

「あの程度の嵐は毎度のことさ。十日も足止めを食らったことだってあるんだぜ」

「知っているよ。飛空艇が来ないと、僕たちだって物資が届かなくてハラハラするんだから」

「そういやアンタはエルドラハの人間だったな。忘れていたよ」

 エルドラハはすべての生活物資を飛空艇に頼ってきた。飛空艇が来なければ食料はすぐに底をついてしまう。だけどデザートフォーミングマシンが動き出した今、エルドラハでも食糧生産が開始されようとしている。どの程度の量が生産できるかはわからないけど、少しは住みやすい地になってほしいものだ。

「今日中に帝都に着けるの?」

「砂嵐のせいで七時間ほど遅れるがな」

 それくらいだったら問題ないな。飛空艇の構造はもう少しで全体が把握できる。七時間もあればじゅうぶんだろう。図解も描いたから日本語にした意味がなくなっちゃったけど、まあいいや。

 エルドラハに帰ったらさっそく飛空艇の制作に取り掛かるとしよう。でもこんなに大きなものを作るのは効率が悪いな。それに飛空艇は飛行速度が遅すぎる。もっと小さくて、速い飛行機でも作ってみようか? 頭の中でいろんな夢が広がっていくぞ。

「どうした、にやけた顔をしやがって。女のことでも考えていたか?」

「違うよ! もっと別なこと」

「むきになるところが怪しいな。おおかた砂漠に残してきた彼女のことでも考えていたんだろう」

 心の中にふとメリッサのことが思い浮かんだ。別にメリッサが彼女ってわけじゃない。ただ、メリッサは僕の許婚であって……。でもそれは保留中で……。僕とメリッサの関係って何なんだろうな……。

「ほら、ぼんやりしてないで冷めないうちに飯を食っちまえよ」

「そうだね。いただきます!」

 とりあえずはご飯を食べてしまおう。僕もメリッサもまだ十代だ。時間だけならたっぷりとある。僕らの未来がどうなるかはわからないけど、先にご飯を楽しんでしまうくらいの余裕はあるはずだ。

 朝食をゆっくりと食べた後、僕は再び飛空艇の設計図づくりに熱中した。


 お昼前になって、眼下に広がる風景に変化が現れた。まばらながら大地に草が生えているのだ。それだけじゃない、背丈の低い木々も見え始めたぞ。

 やがて砂まじりの草地は草原になり、川や池まで見えてきた。あまりに久しぶりの光景に涙があふれてしまう。緑ってこんなに美しいものだったっけ? こんなにたくさんの植物に囲まれるのは転生する前以来のことだ。ダンジョン地下六階の比じゃないぞ。これは本物の草原だ!