ただのハッタリじゃないぞ。布で小型のパラシュートを作ればケガをするだけで済むだろう。死なない自信はある。死ななければ「修理」で自分の体を治せるのだ。さらに飛空艇の残骸で乗り物を作ることだってできるだろう。

「ま、待て! 何が条件だ?」

 スタスタと室内へ戻ろうとした僕をプラッツェルが呼び止めた。

「まずはペンと紙をください」

「ペンと紙だと?」

 飛空艇の構造をメモするとは言いにくいな。

「せっかくだから旅行記を書きたいんです。用意してもらえますか?」

「それくらいなら……」

「あと、個室と食事の改善もお願いします。せめて士官クラスのご飯が食べたいです」

「……いいだろう」

 やっぱり要求はきちんと伝えないとダメだね。待遇が改善されるのなら文句はない。僕は近くの兵士から新しい槍を受け取る。見ればワイバーンは大口を開けて火球を放つ寸前だ。

「隙っていうのは攻撃の瞬間にできるものさ」

 今度は小さなモーションでワイバーンが開けた口を狙って槍を放った。外皮は硬いけど、口の中の皮はどうかな? またもや槍はワイバーンを貫き、三体目は喉から黒煙をはきながら砂の上へ落ちていった。


 用意されたのは士官用の個室だった。重力の呪いがひどかった頃に住んでいたアパートと同じくらい狭かったけど、牢屋よりはずっとましである。きちんとしたベッドが備え付けられていたし、椅子とテーブルもあったからだ。

 飛空艇の構造をメモするにはちょうどいい。紙は航空日誌用の物を分けてもらえたし、羽ペンとインクも付いてきた。これでメモも取り放題だ。

 おっと、万が一見られてトラブルになるといけないな。メモは日本語で書いておくとしよう。そうすれば解読できる人はいないからね。

 不意にドアがノックされた。

「失礼します。セラ・ノキア殿。昼食をお持ちしました」

 お昼ご飯はパンにバター、ソーセージ入りの野菜のスープとゆで卵、グラスワインに干しナツメまでついていた。さすがは士官用のご飯である。エコノミークラスからビジネスクラスくらいのランクアップだった。


 またもや窓からの光で目が覚めた。旅も二日目である。昨晩は嵐がひどくなり、砂漠の真ん中に着陸して風を遣り過ごすほどだったのだ。だが天気も明け方前には回復して、今は通常航路を運航中である。

「おはよう。朝食を持ってきたぜ」