「あの、できたら紙とペンをもらえませんか?」

 食事を持ってきた兵士に聞いたけど、すげなく断られてしまう。

「そんなものはない」

 紙もなければペンもない。ついでに愛想もないようだ。メモは諦めて構造の全体像を把握するにとどめるしかないか。食事をお腹に詰め込んだ僕は解析を再開した。


 窓から差し込む日の光で目が覚めた。外は相変わらずの景色で、連なる砂丘がどこまでも続いている。直射日光にさらされた船体は熱くなり、部屋の温度も上昇してきた。吹き抜ける風がなかったら、かなり居心地が悪かっただろう。

「朝食だ」

 無愛想なCAさんのお出ましである。今朝の機内食はパンと水、それに茹でたジャガイモが一つだけだ。パンにチョビッとだけイチゴのジャムが乗っているのが救いだった。

「そろそろ半分くらいですか?」

「ああ、そんなもんだ」

 出発は昨日の昼過ぎだった。夜通し飛んでいたので中間点に到達するくらいだろうと予測したのだ。

「まだ半分か、先は長いなあ」

 うんざりとした僕の様子を見て、兵士はぷっと噴き出した。

「そんな顔をするなよ。今は時速80㎞で北上しているんだ。じきに涼しくなって、ちったあ過ごしやすくなるぜ」

 こうしてみると帝国兵士にも人情味というものがあるようだ。笑顔というのは大切なんだな。

 突如、飛空艇に警報が鳴り響いた。

「え、これはなに?」

「魔物の襲撃だ。クソッ!」

 兵士は僕を置いて外へ飛び出して行った。慌てて窓のところににじり寄ると、はるか彼方に黒い影が見える。あれはワイバーンじゃないか!

 ワイバーンは翼竜に似ており、大型の魔物に分類される。全長は9m―12mもあり、群れで行動することが多い。非常に好戦的で、同じ魔物にもちょっかいを出すことで知られている。知能はあまり高くないようだ。

 じっと見守っていると船から大きなファイヤーボールが発射された。帝国の魔法兵が甲板から火炎魔法を撃ちこんでいるようだ。

「あれじゃあだめだ……」

 予想通りワイバーンはするするとファイヤーボールを避けて接近してくる。魔法の威力は悪くない。でも、攻撃速度が遅すぎて完全に見切られてしまっているのだ。このままでは飛空艇が落とされてしまうぞ。