僕の幼い頃からの夢は連なる砂丘を越えて外の世界を見ることだ。なんせこの世界に生まれ変わってからエルドラハを出たことがないのだ。久しぶりに都会へ行ってみたい気持ちは抑えられない。その夢がついに叶うときがきたのだ。

「もしも治療が成功すれば褒美として帝国市民権をやろう。この流刑地から抜け出せるぞ。それだけではない、恩賞も思いのままだ」

 ずいぶんと太っ腹なところをみると、患者の身分はかなり高いようだ。それに、僕を推薦することによってプラッツェルの株も上がるのだろう。だからこんなにいい条件をだすのだと推測した。

帝国市民権なんてどうでもいいけど、飛空艇と都には興味がある。

「わかりました。診療をしてみましょう」

「そうか! ならばさっそく出発だ」

 プラッツェルは喜び勇んで立ち上がった。

「今すぐにですか?」

「もちろんだ。魔結晶の積み込み作業は終わっている。飛空艇はいつでも出発できるぞ」

 一息つく間もないようだ。

「あの、僕の仲間も一緒に連れて行ってもらえませんか?」

 リタやシドも飛空艇に乗りたがっていたから、ダメもとで頼んでみた。

「それはならん。連れて行けるのはお前一人だけだ。許可も取らずに囚人を移送したら我々が罰せられてしまう」

 やっぱりだめか。仕方がないので僕はララベルに伝言をお願いした。

「ちょっと帝都に行ってくるよ。デザートホークスのことはシドたちとよく相談してね」

「わかった。こっちのことは任せておけよ」

 僕は帝国兵たちに半ば連行される形で飛空艇へと歩いていく。それを見て仰天したのはエルドラハの人々だ。この地に囚人が送り込まれるのは日常茶飯事だけど、逆に出ていく光景なんてお目にかかれるもんじゃない。僕だって見たことがないもん。

とにかく、僕は夢の一つを叶えることができた。囚人は近づくことさえ許されない飛空艇へ、ついに足を踏み入れたのだ。



 流刑地の囚人である僕への待遇がいいとは微塵も考えていなかった。それほど僕は楽天家じゃない。帝国のやり口は幼い頃から身に染みて知っている。だけど、ここまでひどいものとは予想していなかった。まさか囚人護送用の檻に入れられるとは思ってもみなかったのだ。

 僕は病人を治療するために帝都へ行くんだよ。こんな扱いはないと思う。エルドラハからの帰り道なので鉄格子の中に囚人はおらず、僕一人だ。帝都までの道のりは長く、飛空艇でもおよそ四十時間はかかる。その間僕は一人ぼっちでここにいなければならないようだ。