「あの二人で実験するには及びませんよ」

「こ、殺される。誰か、こいつを何とかしろ!」

 泣き声のような命令に四人の帝国兵たちが殺到してくる。けれども僕がプラッツェルを掴んでいるので手が出せない。言ってみれば人質を取っているようなものだ。そんな悪逆なことをしているわけじゃないけどね。

「まあまあ、落ち着いて。これは治療ですよ」

「治療だと? どういうことであるか?」

 もうちょっとかな?

「ララベル、鏡を持ってきてくれないか?」

「わかった。すぐに持ってくるよ」

 ララベルは小走りで自分の部屋から手鏡を持ってきてくれた。こんな物でも流刑地であるエルドラハでは貴重品だ。監獄長の娘だからこそ許される贅沢品である。

「そろそろかな……」

 掴んでいたプラッツェルの顔を開放してやった。自由になったプラッツェルはがぜん強気になる。

「この者を捕えて処刑しろ!」

 いきなり殺すなんて乱暴な奴だ。

「ほら、治しましたよ」

 なおも騒ぎ立てようとするプラッツェルの前に手鏡を突き出した。

「何が、治りましたよだ! 貴様のような輩は見せしめとして――なっ!」

 プラッツェルは言葉を失って鏡を覗き込んでいる。それもそうだろう。奴の左頬にあった大きな痣は僕の修理でなくなっているのだから。

「これを……お前が?」

「そうです。お判りいただけましたか?」

 プラッツェルはニヤニヤとしながら再び鏡を覗き込んでいる。男前になったとは言えないけど、目立つ痣がなくなって嬉しいのだろう。顔をいろんな方向に向けて表情を作っていた。

「なるほど、なるほど。セラ・ノキアとか言ったな。まあ、座れ」

 プラッツェルはこれまでの態度を少しだけ改めた。

「折り入って貴様に頼みたいことがあるのだ。実は帝都グローサムでとある病人を診てほしい」

「どういった症状ですか?」

「ここでは言えん。病人は高貴な身分なのだ。うかつに情報を漏らすわけにはいかないからな」

 こいつの態度はムカつくけど、病人が苦しんでいるなら診療するのはやぶさかじゃない。それに飛空艇やエルドラハの外にも興味はある。