「そんな……」

「そろそろ出発するぞ!」

 ピルモアが大声を張り上げたので、僕らの会話は中断されてしまった。とっても恥ずかしくて、どう答えていいのか分からなかったから、なんとなくピルモアに感謝する形になってしまった。だけど三分後、僕はピルモアに感謝したことを激しく後悔する。こいつはやっぱり最悪の奴だったのだ。

 リタと別れて、自分の荷物のところへ戻った。体は相変わらず重たかったけど、ミントティーのおかげで元気は出ている。なんとか重い荷物を持ち上げて、小部屋の入り口を出たところでピルモアに声をかけられた。他の人はすべて準備を終え、通路で警戒態勢をとっている。

「おい、ウスノロ。忘れ物をしたからついてこい」

 嫌な予感しかしないけど、ピルモアはこのチームのリーダーだ。命令違反はできない。

 ピルモアに続いて小部屋に戻ると、いきなりみぞおちを蹴り上げられた。ブーツがきしむほどの勢いで蹴られ、僕は上手く空気を吸い込むことさえできなくなってしまった。

「リタに気に入られているからっていい気になるなよ」

 ピルモアの目は嫉妬の炎で燃えていた。

「だいたい、てめえは生意気なんだよっ!」

 言いながらピルモアは床に倒れている僕に追い打ちをかけてくる。何度も腹を蹴られ、背中を踏みつけられ、最後は頭を足で踏みにじられた。

「お前はここに置いていく。もうついてくんな」

「……」

「さっきも言ったけど、帰りたいんだったら一人で帰れ。わかったな」

「……」

 痛みで返事をする余裕もなかった。

「ふん、じゃあな……」

 ピルモアは僕の荷物を持って立ち去り、ドアは無情の金属音を立てて閉められた。動きたくても、思いっきり蹴られて体が動かない。これはかなりヤバい状況だ。ずっと我慢してようやくジョブが得られようというときになって人生最大のピンチがやってきたのだ。

 僕は体を起こして壁にもたれかかった。地上はそろそろ夕暮れだろうか? 東の水平線から星々が姿を現す時刻だろう。僕がセラとして生まれた時も、青い星がひときわ美しく輝いていたと母親が言っていた。

「痛いなぁ……」

 そろそろ僕がこの世界に来てまる三年の時間が経とうとしていた。



       ◇