「セラ君、ようやく来たね。こちらのプラッツェル様がお待ちだよ」

 虎が猫なで声を使ったらこんな感じだろうか? 監獄長は気持ちの悪い声で僕を迎え入れた。

「こんにちはー……」

 声をかけると、プラッツェルという男は僕のことをつま先から頭のてっぺんまで眺めまわした。黒い金壺眼がぐりぐりとよく動く。

「お前がセラ・ノキアか。聞くところによると腕の良い治癒師らしいな」

「違いますよ。僕は治癒師じゃなくて魔導錬成師です」

 そう答えると、プラッツェルは話が違うではないかといった顔で監獄長の方を見た。

「いえいえ、セラ君の腕は確かですよ。そこにいる私の娘も魔物に顔を傷つけられましたが、御覧の通り今では微かな痕跡すらありません。ララベルちゃん、こっちに来てお顔を見せてごらん」

 ララベルはそっぽを向いて父親のことを無視している。プラッツェルは大儀そうに立ち上がってララベルの方へ寄ってきた。

「ここに傷があったのか?」

「はい、耳の付け根から鼻にかけてざっくりと。な、ララベルちゃん」

 たしかにその通りだったけど、ララベルの傷は「修理」によって丁寧に治してある。今ではどこに傷があったかもわからないほどだ。

「ふーむ、信じられん」

 プラッツェルの懐疑的な言葉に、それまで黙っていたララベルが噛みついた。

「嘘なもんか! セラに治せない傷なんてないんだぞ」

 それはどうかわからないけど、時間をかければ大抵の場合は修理できるはずだ。

「ならば試してみよう。おい、そこのお前」

 プラッツェルは僕らの後ろに立っていたモルガンを呼んだ。

「へい、なんでしょう?」

「腰に下げている剣で自分の腕を切ってみろ」

「へっ? それは……」

 尻込みしているモルガンにプラッツェルはすごんで見せる。

「この小僧がお前の腕をくっつけられるのかを実験するのだ。自分で出来ないのなら横の奴に斬り落としてもらえ」

 今度はハットにモルガンの腕を切り落とせと言う始末だ。青くなる二人を見てかわいそうになってきた。二人は監獄長の手下だけど、全く知らない仲でもない。

「やめてくださいよ」

 僕はおもむろに前に出て、プラッツェルの顔面を左手で掴んだ。

「貴様、なにをするか!」

 プラッツェルは自由になろうともがくけど、僕の手は離れない。奴には構わずに僕は魔力を込めていく。