《セラ・ノキア君、至急監獄長のところまで来てください》

 ダンジョンへ向かう僕の耳に届いたのは、監獄長による名指しの呼び出しだった。嫌な予感がしたけど、無視するのも悪い気がする。どうしようかと考えていると、監獄長の娘であるララベルまでもが僕を探しにやってきた。

 なんでも帝国の使者が僕に会いたがっているらしい。しかも飛空艇に乗せて帝国へ連れていきたがっているなんて話だ。

「その使者ってのが嫌な野郎でさ、うちの居間でずっとふんぞり返っているんだよ。それなのに親父ったらヘコヘコしちゃってさ」

 ララベルがプリプリと怒っている。あの監獄長が気を遣っているとなると、やってきた使者というのは相当地位が高いようだ。そんな人間が僕にどんな用事があるのだろう?

 とは言え、急いで駆けつけてやる義理はない。二人でおしゃべりを楽しみながらのんびりと歩いていく。今日の僕らの話題はスイカ料理についてだった。

「ジャカルタのおっちゃんが言ってたぜ。あとひと月でスイカが収穫できるって!」

 地下菜園の作物は順調に育っている。スイカやジャガイモ、ナツメヤシ、トマトなどの小さな実がなっていて、僕らは毎日ワクワクしながら成長を観察しているのだ。

「予定よりもずっと早いなあ。きっとジャカルタさんの農業スキルのおかげだね」

「ああ、楽しみだよな。スイカが収穫できたらどうやって食べる? この前セラが作ってくれたスムージーっていうのは美味かったな」

 百味の聖樹から収穫した果物を「料理」のスキルを使ってスムージーにしてあげたことがあるのだ。ララベルはそれが気に入っているようだった。

 二人で新しいスイカの食べ方を考えていたら、通りの向こうから二人組の男が走ってきた。

「セラさん! よかった、人を遣って方々を探していたんですぜ」

 監獄長の手下であるモルガンとハットが息を切らしている。

「こんにちは。ずいぶんとお急ぎみたいですね」

 挨拶をするとモルガンもハットもげんなりとした顔になってしまった。

「他人事みたいに言わないでください。帝国の使者を待たせるなんてとんでもないことですぜ。お願いしますから急いでくださいよ」
 モルガンとハットの両方に背中を押されて監獄長の屋敷へと連れていかれてしまった。

 部屋の中では帝国の使者が一人掛けのソファーでふんぞり返っていた。官服を来た意地悪そうな男で左の頬に大きな痣がある。異様にでかい態度をとるその男の傍らで、監獄長が3mもの巨体を折り曲げてヘコヘコしていた。使者の身分はまあまあ高いようだ。